第44話 ドラゴニュート
「ふむ。確かにわらわとしても、近接戦闘で壁となってくれよるモンスターがおれば、いざという時、魔法の詠唱に集中できるしの」
俺の宣言に、シャテルが頷く。
「そういうことだ。さーて、どんなモンスターにするかな」
俺はわくわくしながら妄想する。
「常道でいえば、さっきジューゴが作っておったワーウルフと補助魔法を使えるリッチを組み合わせた小隊を作る形かの。今のジューゴなら、5人規模の小隊をいくつも作れるであろう」
「うーん。それも悪くないけど、あんまり店の中にモンスターがたくさんいると、客に威圧感を与えちゃうからな。店もそんなに広くないから、現状では数の力を活かしにくいし」
店に入るまでは、物量作戦で圧殺。店の中は少数精鋭で警護。そういう形でいこうと思っている。
それに、俺の身辺に常駐させるモンスターには、やっぱり容姿も含めて、色々こだわりってカスタマイズしたい。コピペみたいな容姿のモンスターを侍らせても楽しそうじゃないし。
そうなると、数を増やして一体一体個体差をつけるとなると、ルクス的には無駄が多くなる。
「ほう。まあ、このダンジョンの主はジューゴなのじゃから、好きにすれば良い。……じゃが、これだけは覚えておいておいてくれ。お主が気まぐれで与えた性格でも、そのモンスターにとっては一生ものなのじゃということを」
シャテルはそう言ったきり、碁盤に視線を落として、俺との会話を打ち切る。
「わかってるって。うーんと、ひとまず、人型であることは確定だな」
俺には特殊な性癖はないので、下半身が蜘蛛とか、ちょっと前に流行った奇抜なモンスター娘に走ろうと思わない。まあ、そういうのも別に嫌いではないけど、まずは特殊よりもスタンダードを優先しよう。
と、なるとやっぱり獣人系統かいいかなあ。
だけど、ワーウルフやキャットピープルだと、スキルで強化したとしても、能力的には中級冒険者に毛が生えた程度なので、どうしても心もとないなあ。
とりあえず、ファンタジーで強そうなモンスターといえば、やっぱりドラゴンか。
そういえば、人型じゃないけど、ドラゴンを創るのはどれくらいかかるのかな。
俺は試しに、世間的にポピュラーな、赤い鱗を持って火を吐くようなテンプレドラゴンを想浮かべてみる。
ファイアドラゴン・・・その創造に、『真の魔王』は七万ルクスを要求する。
高っ!
さすがは、強敵の代名詞、ドラゴンさんやでえ。
でも、『ファイア』がついてるってことは、普通のドラゴンもいるのかな。
今度は、緑色の、空を飛ぶだけのやつを想像してみる。
ドラゴン・・・その創造に、『真の魔王』は五万ルクスを要求する。
おっ、ちょっと安くなった。どうやら、五万ルクスがドラゴンの基礎コストのようだ。
そこに『ファイア』とか、『アイス』とかのオプション属性を付加していくとその分余計に取られるということだろう。
じゃあ、これに人化のオプションをつけてみたらどうだろう。よくある『龍人』ってやつだ。
ドラゴニュート・・・その創造に、『真の魔王』は六万ルクスを要求する。
+一万か。まあ、悪くはない。
これを基本に、色々いじってみよう。
性別はもちろん、女。
知能は、店番が出来て、普通にシャテルと連携がとれれば十分だから、まあ、平均ちょい上くらい。
身長は、俺よりちょっと低いくらい。やっぱり見下ろされるよりは見上げられたいからな。
まあそれでも、女子としてはちょっと高めの身長だ。
顔は、目鼻立ちのはっきりした女優クラスの美人で、髪は腰まで伸びる緑髪の長髪。
胸はもちろん巨乳。ちょうど、グラビアアイドルのきゃっきゃうふふ画像がテレビに映っているが、そのおっぱいよりもさらに盛ってMカップにしてやる。
世間には『大きすぎてもダメ。Cカップくらいがベスト』などとわかったようなことをほざく輩もいるが、せっかくのファンタジーなんだから夢を詰め込もう。
当然、腹は引っ込め、ヒップは大きめで、メリハリのある肉感的な感じにする。
一言で言うなら、『ムチムチ』体系だろうか。
(さて、ここからが重要か)
いよいよ、性格を決めていく番である。
性格こそモンスターの核とも言っていい部分。
今までのどうでもいいモンスターは性格までは細かく指定せず、ランダムで製造していたが、ここまでコストをかけたキャラならば、そこもおろそかにする訳にはいかない。
(うん。とりあえず、素直な娘がいいな)
現実の女は大体裏表のあるめんどくさい性格をしているので、わざわざ自分の配下に対してまで、感情の裏を読むようなめんどくさいことはしたくない。
(後は、とにかく、ご主人様の俺を大好きなことだな。俺のことが好きで好きで好きで好きでしょうがなくて、いつも一緒にいたいと思ってるような。そういう娘がいいな)
今まで俺が創造してきた魔物を見るに、何のオプションも付加しなくても、創造主の魔王に対しては自動的に、一定の好意……というか敬意を払うようになっているっぽいが、俺は更にそれをマシマシにする。
うちの奴隷ちゃんたちは、全然『さすがご主人様です!』とか言ってくれないし、彼女の委員長はたまに誉めてくれるけど、明らかに打算ありきの腹黒だし、とにかく愛に飢えているのだ。俺は。
無条件の好意が欲しいのだ!
そんな感じで設定を決め、再び俺は想像する。
さてこれでおいくらルクスだ?
ドラゴニュート(任意構成)……その創造に、『真の魔王』は六万八千ルクスを要求する。
+八千か。
思ったよりも追加費用は安かった。まあ、いじったのが、戦闘能力にはあんまり関わりない部分だったからだろう。
まだルクスには余裕があるので、さらにスキルを付加していくことにする。
元々高いスペックを誇っている、身体能力や、自己修復能力(オートヒール)、魔法防御力など、壁役として必要な長所をさらに伸ばす。加えて、剣や槍など、一通りの近接武具も扱えるようにする。
一応、素直な性格に設定したので、それが元で店番している時に客に騙されたりしないように鑑定のスキルも与えた。
こうして諸々調整した、俺の新しいモンスターに結局必要なのは――
ドラゴニュート(任意構成)……その創造に、『真の魔王』は十万二千ルクスを要求する。
ということらしい。
一応、保険として二万ルクスほどは残してはあるが、溜め込んだルクスのほとんど消費する超大盤振る舞いである。
高い気もするが、元々俺はハーレムを楽しむために魔王になったのだから、ここらへんは妥協できない。
(よしっ! もってけドロボー!)
俺は清水の舞台からフルダイブする心持ちで、ルクスを捧げる。
・『真の魔王』は、十万二千ルクスを受け入れた。
無機質なメッセージが流れると共に、俺の目の前に突如出現した光の粒子が、人型に収束していく。
そして、ドラゴニュートがその一糸まとわぬ純白の裸身を、俺に晒す。
俺が想像した通りの容姿。
ドラゴンが人化したといっても、羽とか角は生えていない。
代わりに身体の所々に刻み込まれた、刺青にも似た鱗状の紋章が、彼女が竜族であることを示していた。
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