第18話 魂の稼ぎ方

 それから先の一週間は、雌伏の期間だった。


 俺のルクスはかなりカツカツの状況だったが、それでも俺はティリアたちがきちんと店のことを喧伝してくれることを見越して、商機を逃すまいと稼いだ側から施設を増設する。


 まず、新たに転移機能のついた扉を二つ新設した。


 接続先は、いずれも『真の魔王』が所有する、『実りなき草原』と『偏狂の荒れ地』である。


 シャテルによれば二つとも、ダンジョンの中層にあり、『強欲のるつぼ』ほどはトリッキーでなく、攻略のしやすいダンジョンらしい。


 反面、出現するモンスターから得られる素材もしょぼくなるので、いわばローリスクローリターンの迷宮だということなのだろう。


 まだ、劇的というほどの客の増加はないが、ティリアたちが地上に帰還して、その噂が広まり、冒険者がやってくるまでのタイムラグを考えるともうしばらく時期を待つ必要があるのかもしれない。


 最初の客であるジャンが帰ってから、その噂を聞いた冒険者がやってくるまでに要した最短期間はおおよそ六日くらいだった。


 なので、そろそろティリアから話を聞いた人間が店に来てもおかしくないと考えていたのだが、軽装備で命からがら全てを捨てて地上に帰還したであろう少人数のジャンたちのグループと、重装備で着実にダンジョンを踏破する実力を持ち、大集団で移動するティリアたちでは、行軍スピードに差があるのかもしれない。


 ともかく、今俺にできることは――


「じゃあ、ちょっとルクス稼ぎに行ってくるから。店番頼む」


 とにかく貯金を作るしかない。


 何とか効率的にルクスを稼ぐ方法を考えたいところだが……、やっぱり『憑依』を使わず、ゴブリンたちに勝手に検索を任せるのは怖いし、指揮を任せられるほどの知的に高等なモンスターを作るには、これまたたくさんのルクスがいる。


 悩ましいところだ。


「んー、仕方ないのお。最近、客が増えてきよって、一々読書を中断されるから面倒なのじゃ」


 シャテルはそう不満をこぼしながらも、小さく頷く。


 俺はゴブリンシャーマンに憑依する。


 例の色々入ったリュックを背負い、軍団を率いて、廃ダンジョンに向かう。


 最初狩り場にしていた所の獲物が少なくなってきたから、最近は狩り場を変えた。


 同じ廃ダンジョンであることは変わりないが、少し前のものよりも規模が大きい。


「止まれ。ライトを消せ」


 小一時間ほど検索を進めた所で、俺は静かにそう指示を出す。


 キッ! 


 キキッ!


 猿のような甲高い声に、俺は足を止め、『鑑定』する。


 ・アユティ・・・ヒューマンの成人程度の大きさの猿型モンスター。俊敏かつ獰猛で、八歳児程度の知能がある。鋭い爪と噛みつきを主な武器とする。単体ではさほどの脅威になることはないが、連携能力に優れており、群れで行動することが多いため、強力なリーダーに率いられたアユティの一団は、時に格上の敵さえ屠ることがある。当該、モンスターの群れ内での序列は第四位。性格は臆病かつ惰弱である。


「前の曲がり角まで後退するぞ」


 明らかにゴブリンよりは格上のモンスターだ。


 もし群れとの戦闘になったらきつそうだ。


 敵に見つかる前に、俺たちはダンジョンの陰に身を潜める。


 俺は首から提げた暗視ゴーグルに手を伸ばした。


 最初はゴブリン軍団の装備にそんなに金を使うつもりはなかったのが、狩りをしているうちにゲーマーの性でつい極めたくなってしまい、貯金を下ろすはめになってしまった。


 この暗視ゴーグルは一万円ちょい。他にも、今まで合計で三~四万円くらいの装備を与えてしまっている。


(ま、無駄遣いではないよな。ギャルゲー三本分くらいだし)


 俺はそう自分に言い訳しながら、アユティをしばらく観察する。


 アユティは暗闇の中で何かを食べていた。


(あれは、人間の腕か?)


 おそらくそうだ。


 五本の指に、体毛のない肌。


 もし違うにしろ、何かしらの戦闘を経た後であることには間違いない。


 よくよく見れば、アユティ自身も、背中と腹の辺りに幾ばくかの傷を負っている。


(何者かの戦闘で消耗しているなら、チャンスかもしれない)


 しばらく待ったが、他のアユティが来る気配はない。


 本来なら群れの先頭にはリーダーがくるはずなのに、序列四位のこのモンスターだけがいるのもおかしい。


(やってみるか。やばくなったら逃げればいいし)


 俺はいざという時の逃走用に準備しておいた煙幕用のカラースモークボールの所在を確かめ、そう決意する。


 これはせいぜい100円くらいのものだ。


 使い捨てにしても惜しくはない。


「まずは遠距離でかますぞ。俺の攻撃を合図にしろ」

 俺は腰のホルダーに装着していたレーザーポインターを手にする。


 アユティが食事に夢中になっている間に、双眼鏡でじっくりと狙いを定め、スイッチを入れる。


 ギャッ!


 眼球に強烈な緑色の光を照射されたアユティが、腕を放り出して跳び上がる。


「撃て! 撃て!」


 ギャ!


 ギャ!


 ギャ!


 スリングショットを手にしたゴブリンたちが、アユティに鉛玉を浴びせかける。


 『鑑定』で選別した『器用』な性格の奴らだけあって、その狙いは正確だ。


 おもちゃに毛の生えたような武器とはいえ、一応、鳥獣害対策用の代物であり、アルミ缶を貫通するくらいの威力はある。


 毛の薄い顔面部を集中的に狙われたアユティは、這う這うの体でこちらに背中を向けた。


「突撃しろ!」


 ギャアアアアアア!


 そのまま残りの勇敢なゴブリンたちが突撃していく。


 成功体験を重ねたからか、自分たちより大きいモンスターにも物怖じしなくなっていた。


「曲がり角に向かって撃て」


 アユティが逃げないように牽制する。


 鉛玉の跳弾と、俺のレーザーポインターの光に行く先を遮られたアユティは、混乱したようにぐるぐるとその場で回転する。


 キキキキーーーーー!


 迫ってくる俺のゴブリン軍団に、進退窮まったアユティが襲い掛かってきた。


 一体が攻撃を食らったが、数の暴力でアユティに刃を食いこませていく。


 ウキャアアア……ぅ。


 断末魔の悲鳴を上げて、アユティが絶命する。


 ・『真の魔王』は、『魔王』が、新たに五十ルクスを所有することを認める。


 俺はレーザーポインターをナイフに持ち替え、アユティに接近する。


「よし。お前らちょっと肩車してこいつを持ち上げろ」


 縦に三体重なって、アユティの後ろ脚をゴブリンたちが持ち上げる。


 俺はアユティの頸動脈を掻っ捌き放血した後、解体に入った。


「……うーむ。やっぱり中々難しいな。『のっぽ』これを回収しておけ」


 モンスターから素材を手に入れるために、ネットの動画を参考にして、あれこれ試行錯誤しているのだが、鹿などと比べると、臓器の位置の違いなどもあり中々上手くいかない。


 今回も毛皮の一部を損じてしまった。


 まあ、元々ゴブリンたちにボロボロにされているからどうでもいいか。それでも一応、無価値という訳ではないようなので、荷物持ち用のゴブリンに皮を預ける。


「ま、こんなもんか。おい。『出っ歯』、傷を治してやるからこっちこい」


 俺は先程のアユティに一撃をくらい、肩に傷を負ったゴブリンを手招きする。


 ギャギャっ。


 『出っ歯』は喜んでこちらに走り寄ってきた。


「私は、闇の神の僕。あなた様は、生と死を司るすごい御方。私は、今、この死をあなた様に捧げる。故に、ちょっとの生を、『出っ歯』に与えよ」


 俺が憑依しているゴブリンシャーマンの回復魔法は、その詠唱同様単純だ。


 生贄に捧げた肉の分だけ、傷が回復する。ただそれだけである。


 アユティの生肉の四分の一くらいが消滅する。代わりに出っ歯の傷跡が、黒い靄によって塞がれた。


 ギャ!


 ギャ!


 ギャ!

 

 ゴブリンたちが食欲をたぎらせた目で残りの生肉を見る。


「食事の前に、鉛玉の回収だ。見つけたやつには優先的に内臓の美味い部分を食わせてやろう」


 俺がそう命令すると、ゴブリンたちは一斉に地面に這いつくばり、鉛玉を探し始める。


 小さくて丸いものなら何でも武器にできるのがスリングショットの強みだが、それでも弾は無駄にできない。


 数分、弾を探させて、七割くらいの弾丸を回収した後、ゴブリンたちに生肉を食らわせる。


「さて……」


 その間に、俺はアユティが食い残していった腕を観察した。


 やはり人間の腕だ。


 布の切れ端のようなものまでくっついてる。


 ライトをつけて、ダンジョンの奥に目をこらすと、点々と血の跡があった。


 もしかしたら、この先にさっきのアユティと同じで、瀕死状態でルクス的においしいモンスターがいるかもしれない。


「いくぞ。戦闘隊形に戻れ」


 アユティの肉をあっという間に食べ尽くし、骨をしゃぶっていたゴブリンたちに命令を下す。


 血の道標を頼りに、アユティの足跡を追跡し始めた。


 角を三つほど曲がる頃になると、血が落ちている間隔がどんどん狭くなり、その色も濃くなっていった。


 膜を張って固まりかけた血が、そこかしこに点在している。


 そろそろ何か出そうだ。


「足音を潜めろ」


 再びライトを消させ、警戒態勢に入る。


 耳をすます。


 ウ、ウウウウウウウ。


 曲がり角の奥から、ヒキガエルの鳴き声にも似た、くぐもったうめき声が、ダンジョンの壁に反響して俺の耳に届いた。


 再び暗視ゴーグルで、曲がり角の先を観察する。


 いた。


 アユティだ。


 十体くらいいる。


 群れのようだが、まともに立っている個体はほとんどいなかった。


 もはや、九体は地面に倒れ伏して、身体を痙攣させたり、両脚を失い、腕だけでそこら中を這いずり回ったりして、死んでるか、今にも死にそうな戦闘不能状態だ。


 生き残った一体も満身創痍で、身体から血を流し、片目を潰されている。


 どうやら群れのボスらしく、相撲取りよりもさらに二回りはでかい身体をしていた。


 それに対峙するのは冒険者の一団。


 しかし、こちらもボロボロだった。


(獣人の剣士が一人、人間の魔法使いが一人、それと――死体が二つ。全体的に若いな)


 しかも、その魔法使いは片方の腕をなくし、地面に倒れていた。


 さっき俺たちが殺したアユティが食っていたのはこの魔法使いの腕らしい。


 唯一まともに戦えるらしい剣士も、その刃は欠け、鎧には縦横無尽に爪痕がはしり、そう長い戦闘には耐えられそうにない。


 そうこう観察している内に、巨大なアユティと、剣士の影が交錯した。


「ギキャアアアアアアアアアアア!」


「うぐわああああああ!」


 まさに相打ちだった。


 剣士の刀は、見事アユティの両脚を切断した代償に折れ、アユティの爪の一撃は、剣士の右胸をばっさりと袈裟斬りにする。


 アユティは成す術なくダンジョンに倒れ、剣士も力つき膝を折り、半分となった刀で辛うじて身体を支えている。


(どうせ死ぬんだったら、あのアユティ分のルクスは欲しいな)


 冒険者にアユティにとどめを刺す余力は残ってなさそうだし、漁夫の利を得たい。


 ついでにいえば、誰も見ていないなら冒険者の方も殺してルクスを頂くという選択肢もある。


 原則的には冒険者は殺さない方針だが、それは余計な対立を生まないためであって、こんな第三者にバレないおいしい状況まで見逃す理由はないのだ。


 まずはスリングショットで確実にしとめていきたいところだが、射線上にあるアユティの死体が障害物になっているせいで、冒険者の方はまともに狙えそうにない。


 仕方ないので、下半身を失って空しく暴れ回っているアユティの方から片付けるとする。


「アユティを殺れ」


 スリングショットを撃ちまくる。


 頭に、傷口に、次々に鉛玉を受けたアユティは、瀕死の状況でもその戦闘本能に従って、こちらに上半身だけで這ってきた。


 後ろに回り込み、危なげなくアユティにとどめを刺す。


 ・『真の魔王』は、『魔王』が、新たに八十ルクスを所有することを認める。


 群れのボスだけあって、貰えるルクスもやはり少し多い。


 じゃ、次は冒険者を狩るか。


 俺はアユティの死体から、視線を剣士と魔法使いに移す。配下のゴブリンたちも俺に従い、敵意を冒険者に向けた。

 

「我らが命運もこれまでか――」


 魔法使いが諦念のこもった声で呟いた。


「すまない。ストノス、僕の指揮が拙いばっかりに……。邪悪なる小鬼よ。覚えているがいい。この汚辱の記憶は、我が祈りと共に聖光神様に届けられ、偉大なる使徒が必ずやお前たちに報復してくださるだろう!」


 剣士が捨て台詞を吐いて、祈るように手を合わせ、服の心臓の部分を握り締めた。四角い縫いどりがあるところを見ると、お守りでも縫い付けられているのであろうか。


(はいはい。テンプレ発言乙――って、ん? 今、聖光神って言ったか?)


 確かに聞こえた。


 しかも何かチクってやるぜ的な発言もしてた。


 どうしよう。


 ぶっ殺していいのか? 


 剣士の言ってることは大方はったりだと思うが、ファンタジー的な魔法がある世界だし、ガチで俺らの姿があのティリアみたいな奴らに転送されて、指名手配されたりする展開になってもおかしくない。


(もしそうなったら――、やっぱり全面戦争なんだろうなあ)


 いくらルクスを得られても、そのために殺されちゃ元も子もない。


 そもそも暇つぶしに始めたようなダンジョン経営で、命を失うリスクは冒したくなかった。


「待て早まるな。俺は魔王ジューゴだ。場合によっては助けてやってもいい(ギャギャ。ギャギャギャーギャ。ギャギャギャ)」


 俺はそう話しかけたが、冒険者たちはキョトンとしている。


(そうか。今、俺はゴブリンなんだった)


 シャテルと会った時のように、魔王の言葉は自動的に翻訳されるらしいが、発声器官がゴブリンじゃあどうしようもない。


 確か文字も――、俺の所有するダンジョン内でしか翻訳されないんだったな。


(しゃあねえ。何とか異世界語でコミュニケーションしてみるか)


 店の宣伝や説明の張り紙を何枚も書いているうちに、同じような文章を反復して目にすることになったので、片言レベルならいけるはずだ。


 俺はそこらに落ちていた小石を拾って、地面に単語を羅列する。


(我……魔王ジューゴ……冒険者……助ける……代償……必要)


 あれ? なんか逆に魔王っぽくてよくない?


「……文字? ストノス。読めるか?」


 文盲なのだろうか。


 剣士の男が魔法使いに問いかける。


「どうやら、こいつは魔王ジューゴの配下の者のようだ。我々を助ける気があると言いたいらしい」


「魔王ジューゴだと!? ティリア様が説教で言及されていた、魔王ながらにして、『善き隣人』になろうとしているという、あの?」


「そうらしい」


 魔法使いは息をするのも苦しそうに短くそれだけ答えた。


 出血がやばい。


「おお! まさにこれぞ偉大なる聖光神の導きに違いない! どうか僕たちを助けてくれ!」


 もうここまできたら助けてやってもいい気分にはなっているが、困るのは安く見られることだ。


 ちょっと祈っただけで、ほいほい助けるような魔王だと思われたら、今後商売が成り立たなくなる。


(代償……必要)


 俺は再度、同じ文字を繰り返し地面に刻み、強調するように○で囲んだ。


「助けるには代償が必要だと言っているようだ」


「そうか! ……確かティリア様も魔王は商売人だと言っていた。魔王ジューゴよ。見ての通り、僕たちはまだ冒険者としては新参者だ。ろくな金もない。売り物になるような素材を得る前に、アユティの一群に奇襲され、ご覧の様だ! ここに落ちている死体の皮が今、僕たちが魔王に売れる精一杯だ!」


(値段……低い)


 剣士の誠実な人柄と必死なのは伝わってきたが、正直、彼らが倒したアユティから得られる素材は、鑑定するまでもなく売り物になりそうにないものばかりだった。


 焼け焦げていたり、剣でズタボロだったり、非常に質が悪い。


 さっき俺が自分で解体したものと同じく、「まあ、タダなら持って帰ってもいいかな」くらいの価値しかない。


「こんな……ボロ……の毛皮では売り物にならない……と考えているようだ」


「そんな――。いや、でも確かにもっともだ。僕たちには素材の品質にまで気を配って戦う余裕などなかった。くそっ。どうすれば」


「もう……いいのだ。魔王ジューゴよ。魔王は生きとし生ける者の魂を食らう存在と聞く。ならば、この我の命とその魂をもって代償とし、どうかピスティスだけは助けてやってはくれないだろうか」


 魔法使いが剣士を見遣って懇願してくる。


 麗しい友情だな。


 なるほど。


 魂を金代わりにか。


 それはアリだな。


 そうだ。


 今後、冒険者の支払い方法に、新たにルクスで支払うシステムを導入しよう。


 冒険者に、瀕死の状態のモンスターをダンジョンに運び込ませて、ゴブリンにトドメを刺させる。


 そうすれば、俺はわざわざダンジョンに出かけなくても、楽にルクスを集められる。


 一方で冒険者も、魔王でない彼らには一銭の金にもならない『魂』で商品を買えるのだから、損ではないはずだ。


 まさにお互いwin―winの関係である。


 うん。


 これだ。


 これしかない。


(受け入れ……)


「魂……そうか魂か! 魔王よ。こう考えてはもらえないだろうか。さきほどお前たちがトドメを刺したアユティはかなりの強敵だった。まともに戦えば、ゴブリンの軍団ならかなりの損害が出たはずだ。つまり、僕たちのおかげでお前は魂を楽に手に入れることができた。だから、その対価として僕たちを助けてくれ」


 俺が新しいルクスの稼ぎ方を思い付いたことに満足して、受諾の意思表示を記そうとしていると、剣士が声を振り絞るように叫ぶ。


 痛い所を突かれた。確かに百三十ルクス分はおいしい思いをさせてもらったことには違いない。


 もちろん、そんなのこいつの勝手な言い分だから無視してもいいんだが、正直一人の命を対価に傷を治すだけというのはぼったくりな感じもするし、魔法使いを犠牲にして剣士だけ生き残らせたら、絶対に俺を恨むだろうしなー。


 聖光教徒とはまだしばらくは仲良くやっていきたい。


 ま、おかげでルクスの収集方法にも目途がついたし、今日はサービスしておいてやろう。


(受け入れる)


「本当か!」


「……ふう……ふう」


 皮を剥ぎたいところだが、そんなことをしていたら魔法使いが死ぬ。


「私は、闇の神の僕。あなた様は、生と死を司るすごい御方。私は、今、アユティの死をあなた様に捧げる。故に、ちょっとの生を、『ストノス』に与えよ」

 死体の内、四体が消え失せ、魔法使いの腕の傷が塞がる。傷口の断面が、肉のように盛り上がった。


「私は、闇の神の僕。あなた様は、生と死を司るすごい御方。私は、今、アユティの死をあなた様に捧げる。故に、ちょっとの生を、『ピスティス』に与えよ」


 剣士の斬り傷が塞がる。


「魔王ジューゴよ! 偉大なる聖光神よ! 感謝します」


 剣士が再び神に祈りを捧げた。


「まだ……だ。辛うじて生を繋ぎ止めたとはいえ、武器も体力もないこのままの我らでは生還は難しい。脱出の方法を見つけなくては」


「大丈夫だ。魔王ジューゴの店には教会がある。そこに行けば、適切な援助が受けられるだろう。光に召された仲間の弔いもしてやらなくては」


「ならば……魔王に案内してもらおう!」


 剣士たちが期待に満ちた目を俺たちに向けてくる。


「帰還するぞ」


 俺は剣士たちに返事をすることなく、ゴブリンたちにそう命令を下して踵を返した。


 ここまでしてやったからには、彼らには生き残って魔王ジューゴの偉大さを宣伝してもらわなければ困る。


 かといって、彼らのパシりのように使われるのは、やっぱり気に食わない。


 考えた末に、寛大な俺は、『勝手に』二人が後ろからついてくるのを黙認してやるのであった。

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