第9話 店舗設計(1)

 学生にとって、土曜日は半分休みのような感覚で、教室もどこか浮ついた空気が漂っている。毎週のことながら、委員長がくっちゃべっているクラスメイトをたしなめるのに苦労していた。


 俺は喋って委員長に迷惑をかけることはなかったが、早速小林が持ってきてくれた廃棄食品を検分していた。


 赤飯のおにぎりとか、かなり冒険した味の新商品の菓子パンとか、微妙な商品がビニール袋に入っている。死体でも喜んで食べるんだから、ゴブリンにとっては十分すぎる食糧だろう。


 時折、ちらちら佐倉がこちらを見てくるが、もちろん、敢えて気づかないふりをする。


 そんなこんなで、ホームルームが終わると、後は授業だ。ダンジョンのことは脇に置いて、普通に学生として勉学に勤しむ。


 そしてあっという間に放課後。


 ゲームでも買いに行かないかと誘ってきた小林に付き合って、しばらく冷やかしをした後、中古の本屋で立ち読みして、ついでにシャテル用の書籍を適当に買って、小林と別れる。


 それから、スーパーで持てる限りのダンボールをゲットしてマンションに帰宅すると、三時頃だった。


 宅配ボックスを漁ると、もう滑車やロープ、布団も届いている。さすがお急ぎ便。布団が多過ぎて、共有の宅配ボックスのほとんどを占領してしまった。


 二回ほどに分けて、さっさと部屋に運びこむ。


 それが済んだ俺は、電動ドリルと金具を使って、ダンジョンの穴の上にある棚に、滑車を設置する。それから、滑車に運搬用のロープをひっかけ、さらにコーヒー豆が入っているような目の粗い袋を結びつけた。


「お帰りなのじゃー」


 下を見れば、漫画雑誌を枕にして寝転がっていたシャテルが、手だけを挙げて挨拶してきていた。



「おう。約束通り、暇つぶしの本を持ってきたぞー」


 早速設置した滑車を使って、中古本をダンジョンに降ろしていく。


 別に滑車を使わずにダイレクトに落下させても良いのだが、稼働実験だ。


 うむ。どうやら大丈夫そうだな。


「おおー。助かるのじゃ!」


 シャテルが嬉しそうに降ろした袋を漁る。


 本のジャンルは適当だが、基本的に時間を潰せるように、文字数が多めの奴にした。歴史の教科書とか、文学作品とか、まず俺自身じゃ読まないタイプの本だ。


 次に、布団一式×5とダンボールを降ろす。


 これはさすがにめんどくさかったので、そのまま落下させた。


 後は滑車を使って、廃棄食品とか、教科書とかが入った学生鞄とかを降ろす。


 最後に俺自身がゆっくりとはしごを降りていく。


 よし。では早速、店を開く準備をしよう。


 まずは、二畳ほどのスペースに組み立てた段ボールを置いた。その上に色々な商品を陳列する。


 次に布団の準備だ。


 床に直接布団を敷くと汚れそうだから、通路以外にダンボール敷き詰めて、ガムテープで固定する。布団を敷いてみるが、やはり四セットおいたら、もう限界だ。残りの1セットはシャテルにくれてやろう。


 配置が決まったら、布団と布団の間にダンボールで衝立をつくる。ダンボールさんマジ万能。後は、枕、敷布団、掛布団にシーツをかけて完成だ。


「後は、説明の張り紙でもするか」


 マジックで画用紙に種々の説明を書いて、店内に張り出す。


 もちろん、扉の外にもゴブリンを使って、案内の張り紙をした。


 俺自身は日本語を書いているつもりなのだが、アウトプットされる時には不思議と異世界語になっている。


「ギャア……」


 作業を終えたゴブリンたちが、居心地の悪そうに鳴く。


 部屋の面積いっぱいいっぱい使ってしまったので、行き場所がないのだ。


 よく考えたら、ゴブリンがすぐ近くにいる場所で落ち着いて寝られる訳がないし、こいつらの待機部屋が必要だろう。排泄もするだろうから、トイレの部屋に直結していた方がいいな。


 ・迷宮部屋(材質・土 広さ・五畳 燃魂灯×1)……その迷宮の創造に『真の魔王』は四十五ルクスを要求する。


 ・扉(ダンジョン転移なし)・・・その創造に、『真の魔王』は五ルクスを要求する。


 ・『真の魔王』は、五十ルクスを受け入れた。


 トイレを設置した部屋に、新たな扉が接続され、部屋ができる。


「よし、お前らは向こうの部屋で待機だ。間違えて穴に落ちるなよー。基本的には部屋を出てはならないが、排泄の時だけは例外として外出してもいい。だが、もし冒険者を見かけても絶対に攻撃してはだめだぞ。腹が減ったらこれを食え」


「ぎゃ」


 俺がいくつかの命令と共に、ゴブリンたちに廃棄食品の入った袋を与える。


 ゴブリンたちは小さく頷いて、ぞろぞろと待機部屋に向かって行った。


 仕上げに壁掛けの時計を設置する。


 地球の時間と異世界の時間は違うので、時計自体が指し示す時刻に意味はないのだが、時間制の宿の料金を計算するためだ。


 これで、一応、設備の設置は終了である。


 まとめると――


 倉庫のある部屋と扉で直結した、物品を販売するカウンター 2・5畳くらい。


 宿泊スペース 1・5畳×4=6畳くらい。


 通路(十字型で、トイレ・待機室・外への扉とつながっている) 1・5畳くらい。


 これで計十畳。いっぱいだ。


 後は、冒険者が来やすいような場所に扉を接続するだけだが……、これはシャテルに相談しなければ、適切な場所が選択できないな。


 俺はそう考え、余りの布団を背負って、荷物とシャテルのいる部屋に戻る。


「ほい」


 布団を床に放り出す。


「なんじゃ?」


「どうせ一日中寝転がってダラダラしてんだろ? だったらこれ使っていいぞ」


 俺はぶっきらぼうに言い放った。


「ほう。ほうほう! わらわに布団を贈るとは。ジューゴも好きよのう。そんなにわらわとのふれあいが恋しくなったのか? ういやつじゃのう!」


 シャテルはうきうきした声でそう言うと、セクハラ親父のようないやらしい笑みを浮かべ、俺の足下に這い寄ってくる。


 別にそういうつもりはなかったのだが、そう解釈してもらっても別に俺にとって不都合はないのであった。


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