松陰の実力者になりたくて 大久保町の決闘編
七星剣 蓮
0和25年 世界大戦が終結して5年
プロローグ
⁇フフフ、我が名はパインシャドウ
松陰に潜み松陰を駆る者
大久保町の決闘から70年余か、早いものだな。
◯和25年、
世界大戦が終結してから5年、
薫子はいつものように始発のトロリーバスの音とかすかなアンモニアの臭いが混じる潮風と子供の泣く声で目が覚めた。
ここは明石市、日本標準時の街だ。
窓を開けるとまだ少し冷たい潮風が流れてくる。
高校生になって半年、
高校生になったことに特段感慨もないけど中学校の友達がみんな一緒なので楽しくやってる。
リビングに行くとお母さんが朝ごはんを作ってる。
「お母様おはよう、今日は朝ごはん当番なの?」
「そうよ、お父様はまだ寝てるの?」
「そうみたい。昨日も遅くまで仕事してたみたいだし。」
テレビをつけた、1ドルが300円とかニュースになってたけどよくわからない。
この辺りではテレビを置いてる家は少ないからちょっと珍しい部類に入るかな。
私はテレビなんて場所をとるだけで要らないと思うけど、お父さんがこういうのは好きなんだ。
「今日の朝ごはんは何?」
「今日はお魚よ、最近水揚げが少なくてお魚も高くなったわね。」
「私、たまにはパンとか食べたいなー、」
「贅沢言ったらダメよ、小麦は高いしパンなんてなかなか手に入らないんだから。」
「パンはまた今度ね。」
今年はまだ少し寒さが残ってる。
まだ、学校行くには早いし薪ストーブの前に陣取ってマンガでも読もうっと。
私は少し昔の「虫かぶり姫」のマンガが大好きなんだ。
こんなすてきな王子様とハッピーエンドいいなあ、などと夢想する、婚約してからがまた大変なんだけど。
あれ、何かモゾモゾ動いてる。
「きゃー!Gが出た。」
人に危害を加えないけどあの見た目があんまり好きになれないのよね。
なんか昔は人を助けていた時もあるらしいけど、いまは勝手に隙間から家に入り込んで食事していくのよ、いやー!はやく絶滅すればいいのに!
飛んで入ってくるのよりはまだマシだけど。
「どうしたんだ大声出して。」
お父様がのそっと入ってきた。
「GがでたのよGが!」
「ん、、、そりゃ!」
お父様が素手で捕まえた。
「これは捕まえて明石市役所に持って行ったらいくらか貰えるんだろ、小遣い小遣い♪」
「お父様よくやるわ、私は絶対触るの無理。」
「はいはい、みんなご飯たべちゃいなさい、ゆっくりしてると薫子、トロリーバスの時間に遅れるわよ。」
そうだ、乗り遅れると学校までタクシーになっちゃう、早いけど私あれあんまり好きじゃないんだよね。
「行ってきまーす。」
電停に着くとトロバス友で幼馴染の蒼(あおい)くんがいた。
私はタクシー嫌いだからトロバス乗るんだけど、蒼は単に乗り物好きでわざわざトロバスに乗るらしい。
妙な仲間意識もあるような、私はなんとも思ってないけど。
「おはよ、ちょっと寒いけどいい天気だね、今日はトロバス日和だ。」
「今日「も」でしょ、蒼くん。」
「源(げん)さんおはよう!」
源さんは数少ない無軌条電車免許を持つトロリーバスの運転士さん、日本ではトロリーバスは明石市にしかない。
架線にトロリーポールを乗せ終わったとこみたい。
「よう嬢ちゃん、もうちょっと待ってくれ。」
私の指定席は左側の一人席の先頭、前の眺めもいいし源さんの話し相手も務めないといけないしね。
蒼もこの席座りたいみたいだけど譲らないよ。
仕方ないから蒼は一つ後ろの席に座る。
「点検よし、嬢ちゃん、乗ってもいいぜ。」
乗り込むと軽快な音楽と語りが流れてくる、頭の中に綺麗な風景が浮かんで来るんだ。
これもトロバスが好きな理由。
しばらく走ると少し色褪せた巨大で赤いタコのオブジェが姿を現す。
タコの駅(旧魚の棚商店街)のシンボルなんだ。
なんでも20年前くらいに当時の松浦市長が北陸のイカの駅の真似をして作ったみたい。
朝早くからどんどん自動車が吸い込まれていく、今日も活気があるなあ。
観光客がタコから顔出して記念撮影してる。
子供可愛い。
市役所の横を通り過ぎて高校前停留所に着いた。
「源さんありがと。」
「おう、嬢ちゃん行ってきな。」
一時限目
蒼と私は校舎に入った、
クラスメイトが次々とタクシーから降りてくる。
「薫子、おはよう、」
「おはよ、陽葵(ひな)。」
陽葵は仲良しのお友達。
「今日は何の科目を選択するの?」
高校では全体のカリキュラムが必修以外は選択式で単位が取れれば自由にその日の科目が選べるんだ。
「今日は月面基地上空のゲートウェイ宇宙ステーションの船内活動職業体験実習にしようかな。」
「じゃあ私も〜、一緒にいこうか。」
「じゃあイプシロンステーションに空きがあるみたいだからそこで待ち合わせね。」
「うん、後でね。」
「蒼はどうするの?」
「僕は今日は語学演習にトロントに行ってくる、英語苦手だしね。」
「そうなんだ、じゃあまたお昼休みにね。」
それぞれ自分にあてがわれたカプセルに乗り込む。
ここのシートはふわふわで最高なんだよね。そのまま実習サボってお昼寝したいくらい。
まあ、お昼寝みたいな感覚なんだけどね。
微かにブーンという振動の後スッと全ての音が消えた。
気がつくとステーションの格納ポッドの中にいた。
いたというのは何というか感覚で実際にいるわけじゃないのよ。
10年ほど前に少しの刺激と信号で脳内の作像機能に直接働きかけてゴーグルなしで自然な視界や感覚を再現できる技術BMI(Brain machine interface)が開発されたんだ。
トロバスの中にもその初歩的な機構が備わっていて乗車すると素敵な景色や匂いや風まで脳内に直接配信できるんだ。
イプシロンステーションにあるのは私のアバター、というかモビルアーマー。
質量は500キログラムくらいあるらしいけど無重力だから重さは感じない。
教官が来られた。
「申請した人は全員インしたかな?」
「はーい。全員揃ってます。」
「そしたら実習に入ろうか、座学で習ったと思うが、見えている視界と実際の動きには2.6secのタイムラグがあるから地球上の感覚との違いを身体で覚えてくれ。」
教官も実際には地球上にいるから声は遅れない。
「まずは座ったままでゆっくり右手を左に回してみようか。」
右手をゆっくり持ち上げて左へっと・・
「うわー‼」
右手がすごい勢いで左胸に激突、ぐわしゃ!
と音はしないけど、やっちまった感はある。
テヘペロ。
「おいおいモビルアーマー壊すなよ。」
教官がケラケラ笑ってる。
手を動かしたつもりなのにすぐに動かないものだからちょっと力入れすぎちゃった。
陽葵はうまく右手扱ってる。
天才か、これが天才なのか。
でも20分ほどで感覚に慣れてきた。
身体を動かそうと思った1.3second後に実際に動き、それを捉えたモニター画像が頭に届くのがさらに1.3second後。
なんとなくつかめてきたよ。
30分もすればもう実際に無重力で移動したり物を移動させたり、実際にそこにいるような感覚になった。
もう船外活動もできそうな気もするけど学生の間には無理かな。
将来就職できたらいいけどね。
一時間ほどして実習が終わったら意識は地球上に帰ってくる。
帰ってから30分は感覚的なタイムラグを元に戻すために必要なの。
同じように右手を左の方に振ってみた。右手が動かない。
しばらくして右手が左に動き出すの早すぎる!
なんだか気持ち悪〜い。
二時限目
クラウド酔いもだいぶ治った。
二時限目は現代社会だ。
今日は男女共同参画推進計画についての授業。
明石市ではもう目標は達成してるけど他市町村ではまだ男の人が威張ってるところまだまだ多いみたい。
昔はチャイルドペナルティといわれて、子供を産み育てたら生涯賃金も3割以上少なくなるとかがあったみたいだけど、明石市では子供を何人産んでも賃金が下がることがないようになってる。
子供のためのコストや負担は男女問わず社会で負担することが徹底されているからなの。
だから女性の職場復帰も早く、キャリアアップにも影響はない。
議員や委員会の委員の数も10年前にはすでに男女ほぼ同数(算定基礎は性的マイノリティの方に配慮して「心の性」で決められている)で構成されている。
でもまだ同性婚は認められていない。まだまだ議論が続くんだろうな。
パートナーシップ宣言やファミリーシップ宣言などは申請件数は増えているけどね。
「はい、エバンスさん、デートDVについて定義を答えて。」
エバンスとは私の苗字だ、お母様側の姓を選択したからこうなってる。
「はい、デートDVとは、、、、」
答えながら、私が蒼の頭をグリグリするのももしかしてそうなのかな?などと考えた、でもデートじゃないけど。
内緒にしとこ。
三限目
今度は物理の授業だ。
先の世界大戦で初めて使用されて数千万人が亡くなった反水素を利用した反物質爆弾の原理について学ぶ。
私は虫かぶり姫だからなんでも興味を持ってなんでも知りたいんだ。
反水素1グラムが対消滅する時のエネルギーは固体燃料ブースター23個分にもなる。
でも反水素を作るためのエネルギーは、対消滅反応で得られるエネルギーよりもはるかに多く必要で、地球上で利用するメリットはほとんどない。
まるで100円稼ぐのに10万円注ぎ込むようなもので全く採算が合わないの。
コストを度外視できる反物質爆弾か、エネルギー補給が困難な宇宙空間で使うのがセオリーかな。
核融合技術が確立していて直径10センチ程度の小さなリング内で持続的な核融合反応をさせて莫大なエネルギーを継続的に発生するエナジーフィラーを搭載できるようになって空路を進むタクシー(いわゆる乗用ドローン)は燃料補給なしに半年は飛び続けることができるようになった。
おかげで学生はいつでも無料で利用できるんだ。
私はトロバスのほうが好きだけどね。
アメリカでは金色に光る自家用モビルアーマーの胸にリング型の核融合エネルギーユニットエナジーフィラーを組み込んで「鉄郎」の名称で販売する製品が売られてるみたいよ。
お昼休み。
蒼が語学留学から戻ってきた。
もちろん例のカプセルで蒼のアバターが行ってるんだけど。
「蒼〜おかえりー」
私はいつものように蒼の頭をロックしてグリグリする。
「Cut it out!」
あ、これはデートDVなのか、まいっか、
蒼はみっちり英語漬けになってきたみたい。
私はおばあちゃんと話す時は英語で話すからお昼休みは英会話に付き合ってあげる。
まあ話はトラムの話とか自動車(いわゆる運転手のいない地上の道路を走る自動運転車)の乗り物の話ばっかりなんだけどね。
四時限目
この時間は数学。
今日は「コラッツの問題」について。
コラッツの問題とは「任意の正の整数nは。
〇nが偶数の場合にnを2で割る
〇nが奇数の場合にnに3をかけて1を足す
このOPを行うとき、どんな初期値からはじめても、有限回の操作のうちに必ず1に到達する、そして1→4→2→1というループに入る。
最近は量子コンピュータを使用して計算していってるみたいだけどまだ無限大数近くに1にならない整数が存在するかもしれず、まだ証明されてないの。
私も一時ハマったことがあったけど駄目ね。
興味なくなったら疲れるだけ。
放課後
私は放課後は隣接する明石市立航空宇宙大学の研究室にいく。
いまそこで研究しているのは宇宙空間で光の速度を超える研究。
100年前にはワープとか呼ばれてた技術なの。
厳密には光の速度も上げることができるから超光速通信にも応用ができるんだ。
原理はこう。
反物質が安定して発生させることができるようになって、宇宙に満ちているダークマターの一部も対消滅させることができるようになった。
ダークマターの素粒子同士を繋いでいる暗黒光子(dark・photon)は比較的結合が緩く、対消滅反応で薄くすることで前後でダークマターに濃度差が生まれ、まるで海から浮上する物体のように前方に引き寄せられる。
これまではダークマターに邪魔されて光も秒速30万キロが限度だったけど、宇宙船の先端に反物質を収束させてビームを波状に放出することで前方がまるで真の真空になり、邪魔するダークマターが薄くなることで光速を突破できるようになった、すごいでしょ。
対消滅エネルギーは同じく波状に後方に噴出することで推力を得るの。
昔、アメリカで鋼鉄のチューブの中を真空にしてその中を長距離移動する乗り物があったらしいけど(蒼なら昔の乗り物に詳しそうだけど)それに似た感じかな。
これが波動エンジンの原理。
今はまだ小さな実験機しか飛ばせないけど、わずか5分で太陽系を脱出させるまでに高速化されたんだ。
今はまだ片道だけど双方向に飛ばせるようになったら火星くらいならほぼ遅延なしでビームを送って通信できるようになるかな。
実はダークマターを反物質で対消滅させるアイデアと基礎理論は私が考えたんだ。
日本の総理大臣賞をもらったのよ、すごいでしょ、ほめてほめて。
だから研究室に呼ばれてるの。
いまは反物質をできるだけ多く保存しておける容器の小型軽量化の研究を任されてる。
軽量で大容量の反水素を保存できないと大きな船は動かせないからね。
もうちょっと容器を薄く削ってみるか、、、
ギュルルル!
1時間ほどしたら蒼が迎えにきたからそろそろ帰るね。
容器の片づけは明日でいっか。
蒼が見てつぶやく
「うーん、なんというか、芸術作品かな、、、、、」
帰りもトロバスに乗ろうかな。
蒼と私は停まっていたいたトロバスに乗り込む。
「源さん、帰りも乗せてね。」
源さん.なんて呼んでるけど、源さんはあの源義経の末裔なんだって。
なんでもゲノム解析でわかったらしいよ。
トロバスは松浦明石市長が観光需要と高齢者の生活の足の確保のために導入したらしいのよ。
タイヤで走るけど無軌条電車免許という電車の免許(動力車操縦者運転免許、国土交通省が発行)がいるからマニアが大挙して乗りに来るんだって。
その明石市長は例のタコのオブジェとか、大型特殊二種免許、牽引二種免許が両方必要な(日本でここだけらしい)トレーラーバスを運行させたり、運転免許試験場の街明石だから、ということらしい。
神戸900のナンバーの緑ナンバー乗用車?
よくわからないけど日本中からマニアがホログラム撮影に来るみたい。
「あー、蒼が私の指定席取った!」
後ろから蒼の頭をロックしてグリグリする。
これがデートDV、なのか。
しらんけど。
乗った瞬間、頭の中にいろんな風景や音、匂いまで自動的に再生される。
これは人のストレスまで解消する効果があるんだって。
海が近くなると少しアンモニアの臭いがしてくる。
今は海に浮かぶ大型船舶の燃料はアンモニアを使ってる。
なぜか内燃機関も現存していて二酸化炭素を出さないアンモニアが大型船の燃料となってるんだ。
タクシー(乗用ドローン)に使ってるエナジーフィラーをたくさん積んだら大型船もそれでいけるような気もするけど。
核融合エナジーフィラーは暴走することもないし。
でも何か理由があるんだろうな。
政治的理由とか。
その間に色褪せた赤いタコのオブジェは後ろに消えていった。
自宅にて。
「ただいま。」
「おうおかえり薫子。」
お父様が出迎えてくれた。
「Gは市役所に渡して来たぞ、5万円で引き取ってくれたわ。」
Gとは昆虫サイボーグのこと。
自動でコンセントから電気を盗んで動く野良昆虫ロボット、グローバルサーチャーインセクト略称「GSI」のこと。
先の世界大戦で諜報合戦に使われた昆虫型偵察兵器の生き残り、負の遺産なんだ。
まだ世界中に10億匹以上這いまわってる。
考えるだけでゾッとするわね。
「お父様、もうお仕事終わったの?」
「ああ、今日は市議会の議事録のことで例のAI市長から呼び出されたよ。」
お父様はAI市長の補佐官なんだ、AI市長には身体がないから一部の業務はお父さんがやってる。
AI市長は20年前の市長選挙で当選した松浦市長の思考や記憶を移植したハイブリッド超高度AI市長だ。
松浦市長の脳から「全脳エミュレーション」技術によるマインドアップローディングによって人間のシナプスの振る舞いまで半導体で再現したもの。
松浦市長はもう引退して松陰でのんびり過ごしてるようだけど。
明石市議会はもう議員というものはいない。
15歳以上の市民全員の思考パターンや主義主張、記憶を備えた仮想市民全員と市長が一秒間あたり10万回の市議会を行い、24時間でのべ86億4000万回の議論を行ってその中から全員一致できる政策の最適解を出してくる。
究極の民意反映とも言えるかも。
お父様たち補佐官は、それを現実世界に反映、適合させるのがお仕事だ。
だから明石市民は皆政策に異議は唱えない。
AIが人間を超えるシンギュラポイントの到来が現実のものになったの。
波動エンジンのアイデアも「私」を移植したAIの3人?が何億回もアイデアを出し合って出て来たもの。
分身AIを使うのは友達もみんなしてるけど波動エンジンのアイデアの基礎理論を出せたのは私のAIだけ、もっと褒めて褒めて。
と脳内?会議してみる。
お父様は流石に疲れたのか、ご飯も食べずに寝ちゃった。
今日はお母様が食事当番だからまあいいけど。
お母様と二人で美味しいもの作って食べちゃおっかな。
今夜は日本人のお父様いないからイングランド風のご馳走にしよっと。
旧プ連(プルチノフ連邦)の穀倉地帯が世界大戦で壊滅してから小麦が手に入らなくなってコテージパンは2個で1万円くらいする高級品だけど、お父様に内緒で買って来て食べちゃおっと。
突然電力がダウンした。
またGが近くの変電所に紛れ込んで悪さしたかな。
こういうことしょっちゅうあるんだよね。
これじゃ買い物行けないやん。
ドローンタクシーは内蔵エナジーフィラーがあるけど空路の管制システムがダウンしたら免許持ってる人しか運転できない。
そもそも電力落ちたらデジタル円使えないし。
お父様は免許全部持ってるけど寝ちゃったしな。
「あーあ残念。」
久しぶりのパン食べたかったのに。
「薪ストーブはあるからシチューでも作る?」
お母様が冷蔵庫のものを適当に入れてシチュー作ってくれた。
「美味しかった。」
知らんけど。
「やっぱり甘いもの欲しいわね。
買いに行こっか。」
「でもタクシー(自動乗用ドローン)も自動車(自動運転車)も停電で止まってるよ、デジタル円も使えないし。」
「じゃじゃーん。」
お母様が出して来たのは紙のお札。
渋沢栄一の柄の一万円札。
日本では最後に発行された紙のお金だ。
そのあとはデジタル円に切り替わったの。
最近明石にもGが原因の停電が増えて来たから市役所から現金も少し置いておくように通達があったんだって。
「でもどうやってショップまで行くの?それにショップは顔認証で支払いだからどのみち停電してたら買えないよ。」
「ほら、明石駅前に頑なに現金商売しているおばあちゃんいるでしょう?そこならちょっと高いけど現金で買えるよ。」
「でもどうやって駅前まで行くの?
まさか歩いて?」
「違うわよ。お父様の水素エンジンのスカイアークあるでしょう、あれで行くの。」
「え、お母様免許持ってるの?」
「知らなかった?お父様とは明石運転免許試験場で出会ったのよ、明石は運転免許試験場の町、私もフル免許持ってるわよ。」
「えーーーーーー!ー」
「知らなかった。」
「さ、let's go!」
カワサキの1000ccエンジンを3機積んだ水素燃料の年代ものの二人乗り乗用ドローン、スカイアークだ。
「前にお父様に乗せてもらったことあるけどすごい音がするよ。」
これは天頂衛星からの電波だけで測位する原始的なスカイアークで免許も取るの難しい。
他のスカイアークタクシーは全部休止してるから空路はガラガラで飛びやすいけど。
明石駅前にすぐについたよ。
駅のスカイポートに路駐機しておばちゃんとこでどら焼き2個買ってくる。
2個で4800円だ。
お釣りは津田梅子のお札と100円玉二つ。
津田梅子初めて見た。
停電しているせいか、歩いておばちゃん商店に買いに来てる人結構いた。
「お母様、買って来たよ。」
「そしたら帰ろうか。」
「ちょっと海岸線飛んでいく?」
「うん。」
「淡路島は普通に灯りがついてるから停電はこっちの沿岸だけなのね。」
少し遠回りして家に帰った。
帰ったらお父様が仁王立ちしとった。
まあ爆音立てたから起きるよね。
薪ストーブでシチュー温め直して、どら焼きはお父様に半分あげた。
遡ることおよそ70年前。
明石市大久保町は無法地帯だった。
国鉄は西明石止まりがほとんどで治安の悪さからその先まで行く列車は数えるほどしかなかった。
大久保町は何かの特区になっていて男の人は全員が拳銃を携帯し、明治22年制定の決闘罪もなぜか超法規的措置で大久保町だけ除外規定が適用されていた。
毎日のように決闘が行われて何人もの死者も出ていた。
稀には大人数のグループでの殺し合いまでやってたと歴史の授業で習った。
松浦元市長はその唯一の生き残りだ。
おばちゃん商店のおばあちゃんも大久保町に住んでいて見ていたと言ってた。
決闘大嫌い、ていって。
大久保駅前もアメリカの西部劇みたいになってて国鉄の貨物列車もよく襲撃されてたらしい、しらんけど。
今の大久保駅には大きなショッピングモールもできててすごい発展してる。
ここで決闘やってたなんて信じられないな。
あ、停電復旧した。
お風呂入って寝よっと。
*******
その瞬間、黒だか白だかよくわからない。黒い閃光が走って何もかも一瞬で消滅した。
けたたましい警報音とともにerrorと書かれた立体セルが空間を埋め尽くす。
この世界では何十年ほどにかるかわからない時間が流れたけど、明石市のフルスペック量子コンピュータの中ではほんのマイクロ秒程度の時間すら経っていない。
やれやれまたやり直しだな。
次はちょうど1億回目か、まだまだかかりそうだな。
しかしこのAI薫子エバンス、反物質の容器をじかに削るとか信じられないことをする。
おかげで停電の影響で容器が破損、反水素が対消滅反応起こしてこの辺り一体一気に消滅したよ。
1億回も繰り返すと、こんなこともあるんだなあ。
それとそこはそうじゃない、どら焼きじゃなくて御座候だろ!
我が名はパインシャドウ、松陰に潜み松陰を駆る者。
昔のアニメ好き松浦元市長の意識の影響の残るAI松浦市長はより良き明石市を作り上げるため今日も1秒間に10万回の市民生活シュミレーションを繰り返す。
80歳になった生身のほうの松浦元市長は今日も元気に明石市大久保町松陰で暮らしている。
最近のアニメは多過ぎて全部は見れんな、、、
終わり。
あとがき
逢沢大介先生の陰の実力者になりたくて。
最高です。応援してます。
田中哲弥先生の大久保町の決闘も是非読んでくださいね。
松陰の実力者になりたくて 大久保町の決闘編 七星剣 蓮 @dai-tremdmaster
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます