一章 エピローグ

 いつもの平和な時間が戻ってくる。 

 行き違いのあった面子とも和解は済ませてある。皆、悪気があってのことではない。騒動を解決するために自分を殺し、他のために必死で行動した結果なのだ。引きづり過ぎるのは健全ではない。駄馬ユニコーン以外、しこりは残っていない。

 駄馬といえば、志藤おっぱいさん。あの人、暫くこっちに留まるらしい。どういう経緯でそうなったかは分からないが、まぁ仲良くやっていければと思う。なんだかんだ穂乃香とも相性良さそうだしな。よくキャットファイトやってるよ。かわいいもんだ。

 奏さんや、藤堂さんはまだ、事後処理の対応も忙しいみたいだけど……。強く生きて欲しい! 今度甘いもんでも差し入れようと思う……。

 でもまぁ、雪処理のとき見た顔は、そんなに窶れてなかったから大丈夫だろう。

 

 しかし――突然の異常気象で大雪が発生したのは参った……。この時期に雪とは……アレかね? 氷河期でもくるのかね? まったく見当がつかんね。

 農家さんは烈火のごとく切れ散らかしてけど。普段穏やかなお爺さんがとんでもない形相になってたし、怒りのあまり何言ってるのか認識できなかった……。モンスターよりモンスターしてた。俺は全く関係ないんだけど! 心当たりなんてまるでないけども! ……ごめんなさい。

 あと、困ったのは雪への対応で不治の病【ぎっくり腰】を発症してしまうものが多く出たことだ。あれは、治癒魔術が効かない恐ろしい病……。別名【Hexenschuss魔女の一撃、pow!!】雪かきとは過酷なものである。安静にしてもらいたい。

 

 だが、雪も悪い事ばかりではない。子供達は喜んだし、一部の契約モンスターもおおはしゃぎだった。『ヴォフ~♪』『雪だるまつくろ~♪』

 さらに、藤堂さんの発案で【雪祭り】を連盟主催で実行した。偉い人も巻き込んで大きめのイベントになり、都市のみんなも喜んでくれたことだろう。

 もちろん俺たちも、クラン全員で協力させてもらった。罪ほろぼ――いや、連盟員として当然の義務であるからだ。

 

 やむことなく降り続く雪は膨大な量である。おかげで、雪像やら灯篭やらが作り放題。魔術などもかませてやれば、大人から子供まで大喜びの映えスポットの完成よ! 

 夜なんかはム~ディ~な感じにして、恋人たちの憩いの場になっていた。 

 ちな、ワイは行けんかったで! 連盟枠で屋台をやらせてもらってたんや! そっちが忙しすぎた……。

 俺と穂乃香の【特製唐揚げ】と【モツの煮込み】は大盛況で、グルメの帝王みたいなおっさんからお褒めのお言葉をいただくことができた。やったぜ! 


 深々と降り積もる雪を横目に、バカ騒ぎしながらみんなで酒を酌み交わす。

 三馬鹿に絡まれて切れ気味になる志藤さん。さらにポンタとアオに襲撃される志藤おっぱいさん。それを見かねた刃さんが間に入ってさらに混沌とした状況になったのは、えらい笑った。

 奏さんと藤堂さんがいい感じの雰囲気だったのを、俺たちで囃し立てたり、いきなり腕相撲大会が始まったり、とにかく馬鹿みたいに騒いだ。

 やっぱりここは居心地がいい。ここにきて本当に良かった……。

 


 雪が深々と降り積もる深夜。

 酒も入り気持ちよく、穂乃香とベットで横になる。

 雪が降っている今は、当然ながら気温が低い。ベットの毛布とかけ布団が最高に心地よい。あと、穂乃香がとってもぬくい~。

「漣の体ひんやりしてるね~」

「穂乃果は温いな~。ごめんね冷たくて……寒くない?」

 『愛してる』お互いの思いを確かめ合った俺たち。彼女は二人っきりの時など、俺のことを『漣』呼びになり、砕けた言葉で接するようになった。

「大丈夫。漣のこと温めてあげる~」

 酒を飲んだせいだろうか、少しとろんとしたような声音の彼女。言葉通りぎゅ~と抱き着いてくれる。温い~。素晴らしい湯たんぽじゃ~。あと、いろいろやわっこい。

「最高だぁ~」

「えへへ~。でも、まだ寝ちゃダメ」

「?」

「ねぇ漣?」

 彼女が甘ったるい声を出し始め、妖艶にほほ笑む。

 ……いやな予感がする。オレの童貞センサーがびんびんに反応している! 危険だ! 逃げろと。

「前に一緒に買い物に付き合ってくれたでしょ? 覚えてる?」

「……どの、買い物だろうか?」

「分かってるでしょ?」

 彼女が俺の耳元で囁く。くそぅ、弱点を把握されてる! いやぁ、足を絡めてこないで~。あぁ~流されちゃダメなんだから~。

「漣が選んでくれたやつ、今、つけてるよ?」

 あ、ああああああああ!!? 

 もう~エロい~。この娘すごいエッチだよぉ。見たい! 俺の選んだやつ!? みたいっ! 誘惑すんごい! もうびんびんだよっ!!

 でも、鉄の意志で耐える。まだそういうのは早いと……思う。俺も、彼女と肉体関係を結びたい気持ちはある。今だってビン! ビンだ! でも、あまり性急に行うものではない気がする……俺が童貞だからかもしれないけど……。彼女を大事にしたい。もっとゆっくり絆を深めていきたい。それからでも遅くない気がする。 なので――

「これで勘弁してくれ――」

「んむっ! む~!」

 あまり深くない唇を重ねるだけのキス。

 彼女は不満そうだが、あんまり濃いやつキメるとスイッチ入っちゃうからね。

「お休み穂乃香」

「…………お休み意気地なしさん――」

 珍しく憎まれ口で返された後、彼女は俺にキスをして眠りにつく。

 

 私はまだ、童貞です。

 

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