第29.5話 ???視点

 異界の最下層。


 ?????視点 


 新しく生まれ変わったであろう、同胞の魔力越しに見えた男と女。

「あぁ、あれが例の弟か……。なるほど器としては申し分ない」

「だが── 俺の趣味には合わんな。品性に欠ける。ビジュアルにも問題ありだ」


 今見た光景に思いを馳せる。

 ただ、あの女はいい。非常に俺の好みだ──つい味見をしたくなるほどには──魅力的だった。

 容姿、魂、魔力どれも素晴らしい。


 器としても価値も申し分ないが、コレクションとして侍らせるのがいいだろう。

 あの男に懸想している様子であったがそれも一興、如何様にでも染められよう。むしろスパイスになる。

「ははははっ。良い楽しみができた」

 だが──今はまだ手を出しようがないのがもどかしい……。

 幾らかの変わり者の同胞が彼等人間につくことは予想していたが──まさか力あるものが三匹も向こうにつくとは……。


 奴らの賢しい謀略で我ら悪魔は地上で名を口にすることができん。行動を著しく制限されてしまった──まったく余計なことをしてくれたものだ……。

 その上、他の幻想種共の邪魔もあるのだから始末に負えないが──まぁ、やりようはある。

 連中の網も完ぺきではない。分け身を作るのは少々手間だが、後々のことを考えれば大した労力ではない。たまに今回のような掘り出し物もある。


 しかし、あの女がいた場所は──日本、か……。厄介だな……。あれは穢れた地だ。

 魔力が満ち、幻想種として肉を得た我ら悪魔だが────あの地では悪魔を擬人化させ愛でる風習や、人を助ける存在として描かれる多くの媒介が存在した。どうかしている。気が触れているとしか思えん……。変態共め……。

 忌々しい……。離反した同胞たちがあの土地の影響を受けていた可能性は大いにある。我ら悪魔はあらゆる欲に寛容だが──連中の狂気は常軌を逸している……。


 あのような穢れた地に、俺の興味を惹く女が存在するとはな。

 まぁいい……。肥溜めに鶴? だったかな。正にだな。


 ただ──俺の他にも興味を持った奴はいたようだ……。

 アレの近くにいるのであれば、そうそう問題はあるまいが────釘は刺しておかねばならんか?

「クククッ、あの娘は俺の獲物だ」




 地上のどこかの風俗街

 ??????視点


「あらやだ!? なにあの娘っ!! 信じられないわ……」

 根暗な糞虫どもから盗み見た光景に驚愕する。


 あんなものを見せられては、とても正気ではいられない。まさかこんなに近くにいたのに気づかないなんて。胸が苦しい。

「はぁ~。此処地上が楽しすぎて耄碌したかしらね……。私ともあろうものが、情けない」


 さっき捕まえた豚に深く腰を下ろす。

「ブヒィ! ブヒィッ!! ブヒッヒィ♪」

「あらっお利口さんねぇ♪ きちんとブタ語を話せて偉いわぁ♪」

「ブヒッブヒッブヒヒィ!!」

「なあに? ご褒美が欲しいの? 卑しい子ねぇ~。いいわぁ。なにが欲しいのかちゃ~んと言えたら──ご褒美 あ げ る♡」

 かわいい豚さんの顎をさすりながら、耳元でやさしく囁いてあげる。

「!! アリサさんっ! あなたと一夜を共にしたいのですっ!!」

「クスっ♪ はいっ失格♪ ダメよ人に戻っちゃ~。あなたは私の豚ちゃんでしょ~」

「ぶっ……ぶっぴぃ~~~~」

 悲しそうに鳴く豚さん慰めながら考える。


 一目見た瞬間にビビッときたっ! 私の勘が告げている。

 あの娘は絶対に! 私と相性がいい!!

 あの娘の内に秘められたものが私には分かる!!

 一見は、純粋無垢、清純、清楚の塊!

「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」──


 だけどっ──ぜぇぇぇったいっ!! あの娘はっ!! ドロドロした劣情を溜め込んでいるっ!!

「私が……。私があの娘を解放堕落してあげなきゃいけないんだから! 待っててねっ! 絶対! 会いに行くからっ!!」

「ぶひっ??」

 

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