第29話 逆鱗

 汚いオブジェから、汚泥のような汚らしい魔力が漏れ始める────

「いふぇ!! いでぇっ!! いでぇよぉっ!!!!」

 ぴきぴきぴきぴきぴきっ!!

 バキバキバキッ!!


 奴から漏れ出した不穏な気配に、たまらず叫ぶ。

「っ!? 出てくんのかよっ!! あれで死んでねぇのか!?」

 加減してねぇぞ!? 芯までいったはずっ!? おまけにこの魔力は!?

「どうしたんです漣さん?── っ!?」

 彼女も奴の気色悪い魔力を感じとったらしい……。抱き着く……力が……ちょい、つおい……。


「アオっ!!」

「間違いないっ! 悪性個体だっ!!」

「ヴォファ!?」(何事!?)

「なんなんだよ!? なんで変態から悪性個体が出てくるんだっ!! くそったれっ!! どんなレベルアップだっ!!」

 悪態をつきながら悪性個体の出現を意味する魔力を上空に打ち上げる。

*かなり古めの原始的な手法。魔力通信が浸透している今ではほぼ使われていない。


 都市からの距離も近い! 生え抜きの連盟員なら気づくっ。はず……。

「あぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 気色悪い魔力を乗せた化け物の絶叫が響く。

「ひっ!」

 短かく、か細い、穂乃香の悲鳴が聞こえた。怯えきったその声音を聞いた瞬間──── 頭が沸騰しそうになる。

 俺の愛らしい穂乃香を恐怖させるあの──

 醜悪で下劣な下等生物への怒りが抑えきれない。

「ギリィっ!」

 俺の口から堅いものがこすれる音が響く……。

 無意識に歯を食いしばっていたらしい。


 恐怖からなのか、震える穂乃香が消え入りそうな声で

「れんさん……。れんさん……。コワイ……」


「────」

 頭の中で 何かが 切れる オトがした


「ぽんたぁ!!!!! あおぉ!!!!」

「きゃうんっ!?」

「漣っ!?」

「きゃっ!?」

 怒声と共に、ポンタとアオに思念を飛ばす。

 腰に回された穂乃香の腕を優しく、ほど……ほど、ほど く────ほどいた…… 。少々手こずったが。


「漣さんっ!! ダメっ!! 行かないで!! お願いっ!! にげようっ! 一緒にいて!!」

 ポンタから無理やり降りた俺を彼女が必死に留めようとする。

「アオ君っ!! 離してっ! 漣がいっちゃう……。ぽんちゃんっ!! お願いっ!!」

 彼女の悲痛な声に酷く心が痛む。

 いつもは可憐で素敵な彼女の声が必死さ故、金切り声じみたものになっている。

「穂乃香────」

 彼女の手を掴み、穏やかに、優しく、彼女の名を呼ぶ。

「……れんさん」

 悲痛な表情ながらも、こちらを見てくれた彼女の頬に両手を優しく添える。

「心配ないよ穂乃香。大丈夫。落ち着いて」

「……でも」

「大丈夫! あんな変態野郎、すぐに片づけちゃうよ」

「れんざんっ!」

「ごめんね。本当は穂乃香を逃がさなきゃなんだけど……、今回はどうにもきな臭い。だから──偶には! オレのカッコいいとこ見ててくれ」

「……うん。でもっ! すぐに私のとこに帰ってきてっ!!」

「あぁ、わか──」


「pgyaaaaaaaa!!!!!」

 完全に氷から抜け出した元変態。

 目、口、から飛び出たミミズじみた太い触手。

 肌を突き破り無数に蠢く細長い糸状のナニカ。

 とんでもなく醜悪な見た目。中途半端に人間の形を保っているのも質が悪い。


 ……話してる途中だろうがぁ!!!!

「ウルセェンダヨ・・・…。っ!! じゃかぁしいわ!! ぼけぇっ! んなにぶち殺されてぇのかっ!! 糞キメェ見た目しやがってっ!! あ゙~~~~!!」

 激情にかられるように、魔力の抑えを完全に解く──

 瞬間、凄まじいまでの魔力が自身から迸る。

 憤激のままに────

「でけぇち〇こぶらさげて、見せびらかしてんじゃねぇよカスっ!!!!」

 渾身の魔力を込めた刀を鞘から抜き放つ。

 抜き放たれた高密度の魔力は斬撃となり、遠く離れた敵のを切り落とす。

「ぴぎゃぁaaaaaaaaaaa!!!!!!!! あぎゃgyagygんぎぃぃいぃいぃ!!!」 

 ポトン。

「そ~んな卑猥なもん、表に出しとくもんじゃねぇだろ。穂乃香が怖がっちまうだろうがよぉ」

 切り落とされた一部は瞬く間に凍り付き、粉々に砕け散った。

「こここおここおこごろず!!! ごろず!! ごろじてやるぅううううぅぅ!!!!!」

「はははっはははははhっは!!!! そんななりして、〇んこ切り落とされて切れんのかよwwww。どのみち使い道なんかねぇだろw!!」


 俺は──かなりハイになっていた。


「「「………。」」」



「オラオラオラオラッ!!!! 威勢がいいのは最初だけか!?」

 展開は一方的。

 長距離から放たれる魔力を纏った神速の斬撃。

 雨を利用した氷の礫の絨毯爆撃。超々低温の冷気の波。

 串刺しにする氷柱。

 さらには悪性個体すら妨害する陰の性質魔力。


 魔力を練ることすら許さない。

 歩くことも許さない。

 歯向かうことも許さ──いや歯向かうことは許してやろう♪ 

 悲鳴を上げることも許そう。


 数分後に響いていたのは、哀れなの小さな呻き声と──タガが外れた化け物の怒声だけだった。


「b…化け もの 。ぐぎゃっ!!!」

「あぁっ!! なんか言ったかぁ!? 聞こえねぇぞっ!! オラッ!!!!」

「たs k て。あぁぁぁ…キ エ るぅ……」

「オラッ!! まだまだ行くぞっ!! 家の可愛いほのかを怖がらせやがって!! 楽に逝けるとオモウナヨ?」


*穂乃果とふわもこ

(漣やり過ぎだよ……。ほのちゃん引いちゃうよ……。落ち着いて~!)*必死の思念

「わぁふ……」(ぷっつんしてる……)

「………すごい」(ぽっ)*顔を赤らめる。

「「えっ」」

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