第23話 暗躍 ????視点

????視点


 あてもなくさまよう────

「では~1曲歌わせて~いただきます!」

「「「いいぞ~~~!!!」」」

「ぼへ~~~~~~~~♪」

「下手くそ~!! あはははははははははっ!!!!!」

 煩い。囀るな。

 妬ましい……。楽しそうに笑っている連中が妬ましい。


「お父~さん!あれ買って~」

「え~、でもさっき違うの買っただろ?」

「あれもほし~の! かって~」

「仕方ないな……。今日だけだぞ。あと、お母さんには内緒だぞ?」

「にひひ♪ ~分かった~。お父~さん大好き~!」

「調子のいいやつだなぁ~」

 俺の前で楽しそうに笑うな。

 妬ましい、妬ましい! 幸福そうにしている連中が妬ましいっ!!



「だぁめ♡ こんなところじゃ恥ずかしいもの。家まで待って♪」

「大丈夫さ。だれにも気づかれないよ。それに──君だって、もう待てないだろう?」

「そんなこと────~~~~♡」

 盛るなサルども。気色悪い。

 妬ましい、妬ましい! ねたましぃ!!

 人生を謳歌おうかしているもの全てが妬ましいっ!!


 十年前のあの日――全て失った。

 父も、母も、兄弟も、祖父も、祖母も。

 家族はみんな死んだ。生きてるのはオレダケ。

 友達なんか一人もいない。

 恋人なんてできたこともない。金を払って相手をしてもらうのがせいぜい……。

 惨めだ……。


 前向きに頑張ろうと思ったこともあった。でも──

 頑張ろうとすると家族の顔がちらつきはじめる。そうなるともう……駄目だ……。

 辛すぎて、動けなくなる。心がどうしようもなく沈んでしまうんだ。なんでオレダケガ……。

 俺は家族の皆が大好きだった。出来のいい息子じゃなかったけど────みんな俺に優しかった。

 温かかった。

 みんなでご飯を食べた。みんなで旅行に行った。みんなでたくさん遊んだ。みんなでたくさん笑った。


 みんなでみんなでみんなでみんなでみんなでみんなでみんなでみんなでみんなで!!!!

「……っ!!!!」


 頭がおかしくなる! 涙があふれ、胸が張り裂けそうになる!!

 往来の隅で1人うずくまり、嗚咽おえつを漏らす。

 道行く人々の奇異の視線にさらされながら、独り耐える……。

 大丈夫だ。少しすれば落ち着く……、いつもの ことだ……。

「~~~~!!!!」


 惨めだ




「大丈夫ですか?」

 ? 誰かが背中を擦ってくれている? 温かい?

 張り裂けそうだった 胸の痛みが引いていく気がした……。

 不審者にしか見えないだろう俺なんかにも親切にしてくれる。優しい人なんだろう。でも──


「放って! おいで、ぐれっ!!」

 ささくれだった俺の心は、反射的に他者の好意を拒絶してしまう。

「っ!!」

 優しい誰かを突き飛ばし、無理やり体に力を入れ走り出す。

「同情なんが! いらないっ!!!」

 吐き捨てるように発した言葉に、彼がどんな顔をしていたかは分からない……。


 ただ――突き飛ばしたとき、ちらっと見えた彼は──

 優し気な顔立ちで──炎を宿したような、不思議なをした男だった。




 ひたすらに走る。

 誰もいない場所を目指して。

 優しくしてくれた彼から逃げるように──暗がりに向けて走る。


「はっはっはっ!!!!」

 ほの暗く誰もいない場所で、独り体を横たえ荒い呼吸を整える。

 徐々に呼吸も楽になり、思考もクリアになってくる。

 頭に浮かぶのは先程と同じ、家族のこと。

家族みんなに会いたい……。おれ、もぅ無理だよ……」

 限界だった……。もう楽になりたいと思い、目を閉じたとき──


「キミィ、とっても辛そうだねぇ~」

 頭上から声がした。

「?」

 近くには誰もいなかったはずなのに……

 億劫おっくうながらも目を開ければ、美しい顔立ちなのに不気味な笑顔をみせる女が俺を覗きこんでいる。

 彼女のは血のように赤く、不気味に光って見える。

 彼女と瞳が合った瞬間、体が震えだす……。先程の憂愁ゆうしゅうは消え、ただ恐怖が心と体を支配する。


 怖い……。誰なんだこいつは?

 『今すぐこの女から離れろ』と、本能が訴えかけてくる。

 えきった心と体に活を入れ、すぐに体を起こそうとするが──

 !? なんだこれ……。動けない! なんだよこれっ!!


「大丈夫かい? とても震えている。可哀そうに……。とても辛かったんだろう?」

「…っ!!」

 女の顔が目と鼻の先にある。  

 赤い瞳 から めが そらせない

「大丈夫。もう心配いらない。私が君を助けてあげよう」

 女が俺の体を包みこむ。先ほどの恐怖が薄れる。

 彼女の甘い香りと、柔らかい肢体に脳が麻痺する。


「君の心は酷く傷ついている。今まで本当によく頑張った。えらいえらい♪」

 頭を撫でられる。彼女の言葉が心に染みる……。オカシイ。

 わかったようなことを言われるのは許せなかったハズナノニ……。

 えもいわれぬ多幸感がおれを包む……。

 情動に身を任せ、自ら彼女に強く抱き着いてしまう。


 あぁ…心地いい。

「よしよし♪ いい子だ坊や♪」


あたまをなでられてきもちがいい──ぼ う や?

「よしよし♪ さぁ坊や、私に身を委ねなさい。心も体も全て。なにも心配はいらない。私は君の味方さ。そうすれば全て上手くいく。気持ち良くなれる。楽になれる。救われる」

 耳元で囁かれる言葉がきもちいい。彼女の言葉に深い安堵を覚える。彼女は信頼できる。

 かのじょのいうとおりにすればいい。


「さぁ──委ねると口にしなさい」

「…ゆだ──」

 多幸感に身を任せ――「ゆだねる」と口にしようとした時──

「優斗」

 穏やかな口調の────母さんの声が……聞こえた。

「……。かあ さん?」


「?? どうしたの────っ!!!! ぎゃーーーーーーー!!!!!!!hidosfdfvnz;vhjk!!!!! あっあぁぁぁぁぁaaa!!!!!!!!」


「よく、留まった。あなたに敬意を表する」

が耳に届いた瞬間──

 視界の全てが炎に包まれた。




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