第5話 外伝、第三の相談者
「次の予約の方がいらっしゃるまでまだ時間があるな、最近忙しくてカクヨム小説書けてないから近況ノート回りから始めるか。」
その時、補助者の武尾さつき君が飛び込みのお客様をともなって入室してきた。
その女性は青ざめた顔で入ってくる。
「こんにちは、赤羽と申します。」
「どうぞ、相続土地のご相談ですか?」
「ある意味、そうですね」
私はいつもの白折を出し、ソファをすすめた。
「昨年末、私の異母弟が亡くなりました。現在、相続権が義母のところに回ってきています。しかし、異母弟には借金が300万以上あります。今後もっと増えるかもしれません。FXや仮想通貨で失敗して、借金を増やしたらしいです」
いきなりハードな話題が飛び出してきた。
7つの顔の一つ、私立探偵の顔も疼くがこの事件は行政書士の顔のほうがいいだろう。
「また異母弟は、私たちの祖母が事故にあった時の裁判を一人で行っていて、賠償請求権を持っています。裁判は2年以上続いており、裁判所が『和解金は300万程度でどうですか』と提示する段階になっています」
「裁判は、異母弟さん一人だけでやっているのですか?」
「はい。異母弟は祖母の介護をやっていた関係で、祖母の家土地、権利諸々を引き継いでいるのです」
「家屋の評価額はいくらですか?」
「私は現在の相続人ではないのでわかりませんが、田舎の家土地ですので、価値はありません。
仮に裁判が成功したとしても、借金とトントン。義母は相続放棄するべきかどうか、かなり悩んでいます。もし義母が相続放棄したなら、私のところに回ってくるので、情報収集しているのです」
「なるほど」私がチラリと見ると
補助者の武尾さつきくんは全ての話を聞き取りながら相続関係相関図を作成し、関連法令と判例をまとめている。いつもながら優秀な補助者である、将来この事務所を譲ってもいいかな。
「――ところが!」
依頼人は、いきなり机をダンッと叩いた。
私は少し驚いたがこういう顧客には慣れている、争族の各種情報は所属するNPO法人でも共有しており様々なバイオレンス話には事欠かない。
「実は異母弟は、祖母の遺産から、私の遺産500万円ぶんをネコババしていたのです。そのお金は使い込んでいて、もうないです。0です。私が祖母の公正証書遺言を見つけて、発覚したのです」
「遺言執行者が異母弟さんで、その通りにしなかったということですか?」
「その通りです!」
争続か……ピッタリの言葉だな。
「義母は、そのお金を返すといいました。が、まだ向こうから連絡はありません……」
依頼人は悲愴な表情で続けた。
「異母弟の財産の中には、私たちの祖母の家があります。家自体に価値はないですが、私は思い出のために欲しいです。私は『なんにもないんなら、せめて婆さんの家をよこせや、オラァ』と言いたいんですよ」
ずいぶん口の悪い依頼者だ……だが、正直な気持ちだろう。
「私も限定承認を調べていましたが、使いどころが難しい制度ですね。もし財産の中に家屋土地があるなら、それを評価するための費用が数十万かかって、さらに司法書士か弁護士への手数料でしょう? 田舎のボロ家に使える制度じゃないですね~。『かなりのレアケース以外は数十万円払ってメリットなし』……まったくその通りですよ」
まるで依頼人が、七星剣蓮行政書士事務所へようこそ(カクヨム)のコラムを熟読しているようである、いや、あのPV数激少ないコラムを読んでるはずもないか、、
だが、相続土地国庫帰属制度についての質問でもなさそうだ…。
「大筋はわかりました、赤羽さんの最終目的を教えてくださいませんか?どのような結末にしたいかといった要望でもいいです。」
「私ができるだけ無傷で、祖母の家土地を手に入れる方法です!」
このタイミングで武尾さつき君が関連法令と判例、同種の相談の解決例をまとめた書類を私に渡す。
「義母さんが異母弟さんの財産を相続した場合は、贈与か売買ですが、貸金業者さんが認めないでょうね。それに遺言書を故意に隠していたということは(公正証書なので隠しようもないが)相続権を失わせることも可能かもしれませんがそもそも相続破棄しそうならその意味もなくなります。」
「そうなんです、もう義母は信用できないんです! 義母と異母弟がグルになって財産隠しをしてたんですよ!」
「赤羽さんが異母弟さんの財産を相続したなら、基礎控除により最もスムーズに手に入れられます。だが、異母弟さんの借金を清算する必要があります」
「それは分かっています。ただ、それはそれでかなりリスクがありそうで……後からどんな借金が出てくるかわからないでしょう?」
「FXや株式、暗号資産の信用買による支払い請求は相続人が請求すれば全容がわかります、CICなどの個人信用情報機関に問い合わせれば借りたお金もわかりますが、もし異母弟さんが個人的に誰かに借金していた場合には確かに調べようがありませんね。」
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もちろん私立探偵としての顔を使えば異母弟さんの身辺調査もできるが長期間にわたることもありその費用は情報屋への報酬も必要で、150万円を超えてくるだろう。ここで提案すべきことではないな。
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「異母弟さんの借金額が確定し、お義母さまが相続をどうするかが判明するまでは、待つしかないですね」
「そうなんですよ! だから心のモヤモヤをカクヨムを読んで解消しているのです。」
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やっぱりカクヨムの読者だったのか、、偶然にもほどがある、私と武尾くんの小っ恥ずかしい投稿作品も読まれているのだろうか?
読まれてないことを祈るしかないな。
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「余談ですが、異母弟さんがやっていた裁判、交通事故なら今更ですが弁護士に相談して依頼し直した方がいい場面もあります、実は交通事故の損害賠償査定額は一般基準と弁護士基準という二重基準になっていて2、3割ほど違うのです、弁護士基準が認められれば弁護士代を差し引いてもプラスとなります、そのついでに本件も相談すればよろしいかと思いますよ。」
※本作は赤羽杏子さんのコメントをほぼそのまま拝借しています。ご了承ください。
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