第4話 閑話休題 限定承認について

 コメントの中で相続における「限定承認」についての質問がありましたので基本的なところを書こうかと思います。


 相続が発生したら三つの選択肢があります。


 一つ目は相続の「単純承認」

 ほとんどの方は気が付かないまま自動的にこの「無条件、無制限にプラスの財産もマイナスの財産合わせた全ての財産、一身専属権や死亡で自動解約となる特約付きの契約等を除く権利義務の全て」を引き継ぐ単純承認となっています。

 要は相続発生を知った時から3ヶ月以内に「何もしてない」場合や、たとえ配偶者や家族であっても故人の預金通帳などを凍結前に勝手に引き出すなどなんらかの処分をしてしまった場合にはもはや相続放棄も限定承認もできなくなります。


 これは無条件無制限なので莫大な借金が後から出てきた場合にも支払い義務を負うことになります。知らなかった、は通用しません。


 本人があちこちから借金しまくっていて一見めぼしい財産がなさそうな場合には普通は相続放棄を選ぶでしょう。

 この場合には財産的価値のあるものはたとえ形見の宝石類や思い入れのある家などがあっても全部放棄しなければなりません。

 プラスだけもらうことはできないのです。

 また、稀な例ですが本人が昔ビットコインのマイニングをしていて100ビットコイン(その当時は100円くらいの価値しかなく、本人がそのまま放置している例が散見されます。)すっかり忘れていたがパソコンの中に100ビットコイン分の文字数字列が記録されていた場合には現在は8億円近い価値があります。

 こういう後から莫大な資産が出てきた場合にも一度相続放棄してしまったらもはや取り戻すことはできません。

 ビットコインに限らず箱付きのソフビのおもちゃや当時1000円くらいのポケモンカード「イラストレーター」(現在の価値一枚1億円)などが出てきた場合も同様です。


 そこで出てくるのが第三の選択肢「限定承認」です。

 これは一言で言うと「プラスの資産の範囲内でマイナスの借金を払います。」と裁判所に申述することです。ただ、かなり精細な財産目録を作る必要があり、一般に弁護士さんや司法書士さんの力を借りることになります。

 しかも「相続人全員で」「3ヶ月以内に」しなければならずなかなかハードルが高いため(弁護士費用も高額になりがち)実際の件数は相続放棄や単純承認に比べて桁違いに少ないです。

 先に述べたかなりのレアケース以外は数十万円払ってメリットなしとなってしまうことがほとんどだからです。

 なぜ高いかと言えば財産の範囲内で債権者全員の貸金額の割合で配当しなけれぼならないからです。

 自分たちでやれば印紙代800円でできるのですがまあ、普通は何度か裁判所から突き返されるでしょう。

 逆に簡単に目録が作れるような単純明快な相続なら普通はお金をかけずに単純承認か相続放棄かにしてしまうだろうな、という感じだからです。 

 参考までに一年間の日本全体の件数は相続放棄およそ20万件に対して限定承認はおよそ700件前後で推移しています。

 日本全部でです。

 結果的に限定承認を一度も扱ったことのない弁護士事務所が大多数を占める、と言ったことにもなっています。

 

 現実的には限定承認はかなりハードルが高い手続きだと言うのを知っていただいた方がいいです。

 限定承認向きの相続とは、そこそこ大きな資産があり、借金もそこそのありそう、どっちが多いか判別がつかない、場合には高額の弁護士費用を払って限定承認扱い件数の多い法律事務所に依頼するのはアリでしょう。

 うまくいけば多額のプラス財産が残る可能性も高いです。

 マイナスが多かった場合には弁護士費用だけがマイナスとなるだけです。

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