第3話 相続土地国庫帰属制度コラム

☆相続土地国庫帰属制度


1 はじめに

 遺産分割の手続きで問題になるのが、相続人の誰もが取得を希望しない不動産の取扱いです。

 都市部の不動産や、相続人の一部が居住している不動産であれば、取得希望者がいないという事態が起こることはほとんどありません。相続登記を済ませると程なくして数多くの大小の不動産会社から「売りませんか?」「その地区での購入を希望する人がいます。」等の勧誘の手紙が連日届くことになるでしょう。他方、そういう案内が一切届かない、例えば山奥にあって長年誰も管理しておらず、正確な位置や境界も判然としない土地などは買い手がつきにくく誰も取得を希望せず、かといって買手も付かないので売却することも困難な不動産が遺産に含まれているケースも少なくありません。

 このような事態を解消するため、相続または遺贈によって上記のような取得希望者のいない土地の所有権を取得した人が一定の要件のもと土地を手放して国庫に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」が、令和5年4月27日からすでにスタートしています。

 



2 国庫帰属が認められない土地とは。


 ただし、どのような土地でも国庫帰属が認められるわけではありません。

 相続土地国庫帰属制度を定めている「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(以下「相続土地国庫帰属法」といいます。)第2条3項で却下事由、第5条1項では不承認事由が定められており、当該事由に該当する場合は国庫帰属が認められないことになります。


3 却下事由

 まず、相続土地国庫帰属法第2条3項では、次のとおり申請が却下される場合が定められています。

①建物の存する土地

②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地

③通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地

④土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地

⑤境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

 これらの事由に該当する場合、当該土地の管理や処分に相当な費用がかかることが見込まれるため、国庫帰属が認められないこととされました。

4 不承認事由

 次に、相続土地国庫帰属法第5条では、次のとおり不承認とされる場合が定められています。

①崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの

②土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地

③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地

④隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの

⑤前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

 これらの場合も、当該土地の管理や処分に過分な費用が必要となることが見込まれるため、国庫帰属が認められません。

 前述の却下事由との違いは、該当とするかどうかが外形的に判断し易いかどうかという点にあります。却下事由は、不動産の全部事項証明書などによってその有無を判断することが可能です。他方、不承認事由は、調査を行うなど個別の判断が必要であり、申請時点では必ずしもが明らかではありません。このため、申請自体は却下されないということになります。

 相続土地国庫帰属法第6条1項では、審査のため必要があるときには事実の調査を行うことができると定められており、同条2項では、申請者に対して、事実の聴取または資料の提出等を求めることができることとされています。なお、申請者がこの要求に応じないときも、申請が却下されることになります(第4条1項3号)。不承認事由の有無は、この調査に基づいて判断されます。

5 費用

⑴ 審査手数料

申請をするにあたってまず、1筆の土地あたり1万4000円の審査手数料が必要です。

⑵ 負担金

 さらに、申請者は、国庫帰属の承認があったときは、負担金を納付しなければなりません。その金額は、「同項の承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭」とされています(相続土地国庫帰属法第10条1項)。

具体的には、

①宅地 面積にかかわらず、一筆あたり20万円

②田・畑 面積にかかわらず、一筆20万円

③森林 面積に応じ算定

④その他(※雑種地、原野等)免責にかかわらず、20万円

を納付する必要があります。


 ただし、①宅地及び②田・畑に関しましては、一部の市街地などについては面積に応じて算定されることとなっています。

 この負担金を納付することにより、国庫帰属という効果が発生します。


 負担金資料参照


6 相続土地を放置するリスク

 取得を希望していなかったといえども、一旦、相続によって取得してしまった土地について、管理が行き届かず第三者の生命・身体・財産を侵害するようなことになれば、損害賠償責任を負うリスクがあります。

 また来年4月から登記が義務化されその時点で親族間で問題が浮上する可能性もあります。

 今年一年間は相続土地国庫帰属制度に関する相談が増えることが予想されます。 

 そしてたとえ相続放棄しても「現に占有している者」は次の所有者が決まるまでは保存責任を負うことになります。

 

参考


民法940条

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。



7、メリット

相続放棄することなく土地だけをスポット的に手放せる

アンケートでは20%が使いたいという結果も。

8、重要ポイント

 ①相続に限る

 ②第三者への遺贈は対象外

(相続人への遺贈は可)

 ③売買等で入手した者は不可

 ④共有物件の場合に共有者の一人が相続で入手していれば他の共有者が売買であっても利用可能、ただし共有者全員で申請する必要がある。

 ⑤最後の入手方法が相続であれば申請可能、期間の制限もない。


10、承認申請手続きを行う者について


 ☆本人

 ☆本人の法定代理人


 弁護士他の士業であっても代理はできない。


 ☆申請書類の作成代行は次の3士業のみがすることができる。


 ①弁護士

 ②司法書士

 ③行政書士


 ☆もっとも、使者による書類提出も認められているため受付時の本人確認はしません。

 この意味で、行政書士そのものが仕上がった書類を窓口に持っていけるということになります。


 ☆最重要注意

 口が裂けても「窓口で、申請代理で来ました、顧客に対して申請代理できます。」と発言してはならない。


 

11、審査請求

 この申請において行われる行政処分には、

 ①却下

 ②承認

 ③不承認

 ④負担金の額の通知

 ⑤承認の取り消し


 があります。

 これに不服のある者は「法務大臣」に対して審査請求することができます。

 特定行政書士も扱った書類に関する審査請求ができます。


 12、実際に相談に訪れる人物像と想定される内容

 ①実家の親御さんが亡くなり、相続することになったが住むつもりもなく買い手が見つからない。

 ☆建物があると制度が使えないので、取り壊しと滅失登記費用を加味して勘案。

 ②相続した土地のうちに親が昔の原野商法や将来の宅地にと入手した土地がある、これを手放したい。

 ③親もその先祖からやむなく受け継いだ。

 ☆子供達に迷惑をかけたくないので自分が生きているうちに処分したい。


 13、実際に実物の申請書を見てみましょう。


 14、質疑応答集の紹介

法務局Q&A転載


15、この制度を見据えた新ビジネスの存在と将来性

 市井(しせい)には原則38万円➕αの負担でどんな不動産も引き取ります、というビジネスが存在します。


16、どうやって報酬にするか。

相談料

申請書類作成報酬

現地調査の日当・報酬

境界、土地家屋調査士の利用


17、最後に

 原野商法二次被害防止について


 登記義務化に伴い、所有者不明土地の名義人名や現住所が公表されることになり、多くの勧誘が行われることになります。

 子供に面倒を残したくないという親心につけ込む悪徳業者も存在すると思います。

 そう言った相談にも対応して行政書士として原野商法の二次被害防止のために働くことも期待されています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る