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第5話 外伝、第三の相談者への応援コメント
「そうそう、その裁判が問題なのです」
赤羽さんがひょこっと戻ってきて、話を続けた。
「私たちの祖母は田舎に住んでいて、トイレは浄化槽つきのものでした」
浄化槽……下水道が通っていない場所に設置する、家庭用排水処理施設だな。
「ある時、浄化槽の点検業者が、庭にある浄化槽のフタをロックし忘れました。祖母はマンホールにはまって、腰を強打して骨折。そこから体調を崩して、死亡したのです」
マンホールって、通常はロックがかかってるのか。なんだか、マンホールの上を歩くのがこわくなってきたぞ。
「点検業者は、全面的に非を認めています。しかし、保険会社AIGが払い渋りをしているのです。裁判は2年以上続き、今は和解金が300万円程度でどうか、という話になっています」
保険会社との争いか。よくある話だな。
「ですがねえ、その裁判がおかしいんです」
依頼人は、顔をしかめて続けた。
「私も訴状とか、関係書類を一通り読ませてもらったことがあるんです。最初、弁護士さんは3000万円請求しましょう、と勢い込んで訴状を作ったんですが、だんだんと弱気になっていったんですよね。
今では、祖母が骨粗鬆症だったかどうか、なんてことが争点になっています。
保険会社『お婆さんはもともと骨が弱かったんでしょ? 払うとしても通院費2000円くらいですね』
私は『いやそうじゃないだろ、マンホールのふたをロックしてたかどうかが問題で、祖母が骨粗鬆症かどうかは関係ないだろ。金払えや』と思うんですがね。
それで結局、今は和解金300万円でどうですか、なんてことになってる。
弁護士の成功報酬を払ったら、赤字じゃないですか?
素人目に見ても、どうもこの弁護士さんはマズいように思うんですよ。
ただ、裁判はかなり進展しているので、今さら弁護士を変えられるのかどうか……?
裁判所の外で和解を目指すとか、そういう方法を考えるしかないと思うんですけどね」
なるほど……その裁判で多額の賠償金を得られれば、異母弟の債務はラクに返済できる。ただし、既に裁判はかなりマズい方向に進んでいる、と。
「なにか、保険会社の弱点ってないですかね~? 違法でないなら、なんでもしますよ。まあ、今私は相続人ではないので、そこまで考えたってしようがないんですが」
依頼人はため息をついて、白折をすすった。
作者からの返信
あれま、もう弁護士は入ってるんですね。
相手が過失を認めているなら裁判で勝訴すれば弁護士費用も一割の30万円程度請求できますが、和解では弁護士費用は出ませんからその分は差し引いて考えなくてはいけませんね
弁護士費用は先取り特権がありますから弁護士さんは取りはぐれはないでしょうが、実際の実入は270万円未満(弁護士さんとの契約による)となってしまいます。
かなり厳しくなりますね。
弁護士さんに350万円くらいまでがんばってもらうか、そのままその弁護士さんに限定承認までお願いするかでしょうか。
義母さんのところで借金を止めるためには配当の原資となる財団に貸金業者の300万円、あなたが有する500万円の請求権を含まれば土地家プラス和解金の残り270万円を貸金業者とあなたで3:5の割合で分け合ってその5の中に土地家を含めることになるでしょうか、貸金業者は価値のない人の住んでる土地家なんて欲しがらないでしょうし。
土地家の名義があなたのものになればあとは家賃を貰うなり出て行ってもらうなりすればいいでしょう。
なお、保険会社に弱みなどありませんよ。どんな不祥事を起こそうが、そのお金は顧客から預かった掛け金です。一部の客に有利にすることなど本来あり得ませんしやったら損保ジャパンとビッグモーターのようにとんでもないことになります。
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第4話 閑話休題 限定承認についてへの応援コメント
事務所の自動ドアが開き、青ざめた顔の女性が入ってきた。
「こんにちは、赤羽です」
「あれ? この時間は予約がなかったはずですが……相続土地のご相談ですか?」
「ある意味、そうですね」
私は緑茶を出し、イスをすすめた。
「昨年末、私の異母弟が亡くなりました。現在、相続権が義母のところに回ってきています。しかし、異母弟には借金が300万以上あります。今後もっと増えるかもしれません。FXや仮想通貨で失敗して、借金を増やしたらしいです」
いきなりハードな話題だ。
「また異母弟は、私たちの祖母が事故にあった時の裁判を一人で行っていて、賠償請求権を持っています。裁判は2年以上続いており、裁判所が『和解金は300万程度でどうですか』と提示する段階になっています」
「裁判は、異母弟さん一人だけでやっているのですか?」
「はい。異母弟は祖母の介護をやっていた関係で、祖母の家土地、権利諸々を引き継いでいるのです」
「家屋の評価額はいくらですか?」
「私は現在の相続人ではないのでわかりませんが、田舎の家土地ですので、価値はありません。
仮に裁判が成功したとしても、借金とトントン。義母は相続放棄するべきかどうか、かなり悩んでいます。もし義母が相続放棄したなら、私のところに回ってくるので、情報収集しているのです」
「なるほど」
「――ところが!」
依頼人は、いきなり机をダンッと叩いた。
「実は異母弟は、祖母の遺産から、私の遺産500万円ぶんをネコババしていたのです。そのお金は使い込んでいて、もうないです。0です。私が祖母の公正証書遺言を見つけて、発覚したのです」
「遺言執行者が異母弟さんで、その通りにしなかったということですか?」
「その通りです!」
争続か……ピッタリの言葉だな。
「義母は、そのお金を返すといいました。が、まだ向こうから連絡はありません……」
依頼人は悲愴な表情で続けた。
「異母弟の財産の中には、私たちの祖母の家があります。家自体に価値はないですが、私は思い出のために欲しいです。私は『なんにもないんなら、せめて婆さんの家をよこせや、オラァ』と言いたいんですよ」
ずいぶん口の悪い依頼者だ……だが、正直な気持ちだろう。
「私も限定承認を調べていましたが、使いどころが難しい制度ですね。もし財産の中に家屋土地があるなら、それを評価するための費用が数十万かかって、さらに司法書士か弁護士への手数料でしょう? 田舎のボロ家に使える制度じゃないですね~。『かなりのレアケース以外は数十万円払ってメリットなし』……まったくその通りですよ」
まあ依頼人が、七星剣蓮行政書士事務所のコラムを熟読しているのは間違いないようだ。
だが、相続土地国庫帰属制度についての質問ではないのだが……。
「――で、ご相談したいこととは?」
「私ができるだけ無傷で、祖母の家土地を手に入れる方法です!」
「義母さんが異母弟さんの財産を相続した場合は、贈与か売買です」
「でも、もう義母は信用できないんです! 義母と異母弟がグルになって財産隠しをしてたんですよ!」
「赤羽さんが異母弟さんの財産を相続したなら、基礎控除により最もスムーズに手に入れられます。だが、異母弟さんの借金を清算する必要があります」
「それは分かっています。ただ、それはそれでかなりリスクがありそうで……後からどんな借金が出てくるかわからないでしょう?」
「異母弟さんの借金額が確定し、義母さんが相続をどうするかが判明するまでは、待つしかないですね」
「そうなんですよ! だから心のモヤモヤをカクヨムにぶつけてるんです」
なんのことやら……。
おっと、そろそろ次の依頼者の予約時間だ。ひとまず、帰って頂こうか。
作者からの返信
実務は結構泥臭いものですから無理にスッキリ解決。とする必要もありません。いろいろとやりようはありますよ。
義母さんに単純相続してもらい、赤羽さんには公正証書を根拠に500万円の損害賠償請求を行って債務名義を得ればあなたも債権者となります。
異母弟の借金300万円と合わせて総額800万円の債権
義母さんは払えませんから自己破産すれば300万円とほぼ価値のない土地家を貸金債権者3/8、赤羽さんが5/8の割合で分け合うことになります
貸金債権者に少し多く現金を渡すことで土地家は赤羽さんが手にします等
その他やり手の弁護士ならもっとえげつない方法を考えてくれますよ。
貸金債権者は激怒するでしょうが。
赤羽さんが土地家を手に入れたら義母さんに家賃もらってそのまま住める約束をすればよろしいかと
義母さんが相続放棄してきたらまた別の方法を考えればよろしい、その代わり義母さんは家を出なければなりません。
相続権が赤羽さんに回ってきたら問題はシンプルになりますし公告もすることから借金情報もはっきりしてくるでしょう。
義母さんが時間稼ぎしてくれたおかげであなたの3ヶ月は義母さんが相続放棄をしたことを知った日から3ヶ月です。
実質半年ちかく時間があることになります
必要があれば理由を示して3ヶ月を延長も可能です。
物語としてもかなり面白いですね。
余談ですが相続権があなたに来てしまうと500万円の債権と債務が打ち消しあって消滅することになります。
第3話 相続土地国庫帰属制度コラムへの応援コメント
これはとても有用な制度だと思うのですが、取り壊し費用が……。
・道が狭く、トラックを土地の前に止められない
・庭園や池がある
こういうことになると、取り壊し費用倍増です。
家屋取り壊し費用の助成金制度は……やっぱり、ないですか?
作者からの返信
ないこともないですが全国一律のものはありません。
該当の自治体への問い合わせをお勧めします。
「老朽危険家屋解体撤去補助金」
「老朽危険空き家解体補助金」
「空き家解体補助金」
「空き家解体助成金」
「空き家解体費助成制度」
名称は自治体によりそれぞれ違いますし適用の要件も違います
優良解体業者なら申請可能なものがあれば教えてもらえますが、悪徳解体業者に引っかかると補助金もらっても他社より高くなることも珍しくありません
会社選びは慎重に
財政難で補助金出せない自治体もあります
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第0話 相続土地国庫帰属制度とはへの応援コメント
いま、松本明子さんの『実家じまい終わらせました!』を読んでます。
この本の出版は2022年なので、相続土地国庫帰属制度のことは何も載っていませんが、もしこの制度があったら、有力な選択肢になっていたでしょうね。
作者からの返信
そうですね。
当時にその制度があれば長期放置して莫大な管理費を払うこともなかったかもしれません。
何よりこの制度の強みは「相続した土地」であれば何十年経っていても使え、しかも共有者を特定でき全員で申請すれば(これも新制度の不在者、不明者がいても手続きできる新制度の利用も可)こんがらがった多重相続の土地を一気に清算できる可能性も秘めているのです。
登記も国がしてくれます。(建物の滅失登記はこちらでする必要があります。)建物のない原野や山林などにも有用と考えます。
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第2話 第二の相談者への応援コメント
おお、ハッピーエンドでよかったです。
第1話で田畑についても出てましたし「相続した土地なら、建物がたってなければ、だいたい大丈夫」という理解でよろしいでしょうか?
作者からの返信
それがそう簡単ではないところが専門家がいる理由なんです。
そもそも登記できない、してはいけない土地であったり、100年近く放置して共有者の数が200人を超えてたり(共有者全員で手続きしなければなりません、あとは崖地であったらダメとか土地への道路がないとか、他人が通路として使っている土地とか(承役地といいます。)法務省が出しているガイドラインだけでも一冊の本になりそうなくらいあるのです。
長年手をつけてない売れない相続土地というのは何らかのいわくつきであることも多いですなかなか一律こうだとは書けないのです。
第1話 第一の相談者への応援コメント
これはすごいお役立ち情報! ありがとうございます。
でも、若い読者層には関心がない話題かも(笑)
作者からの返信
コメントありがとうございます
そうですね、相続に縁のない若い方にはあまり興味がないかもしれません
しかしながら相続は突然やってきます
松本明子さんが相続した実家空家に2000万円払ったニュースが流れていましたがこの新制度も一つの選択肢となりえます
役にたつ場面もあると思います
ただ、人気は、出ないでしょうね笑
第6話 相続登記義務化が始まりますへの応援コメント
難しくてよくわかりませんが、勉強になります!
きっといつか役にたつ情報ですよね!
作者からの返信
こいさん、コメントありがとうございます。
これは他人事ではなくある日突然降って湧いたように発生するものなのです。
自分なんて土地もないし関係ないと思っていたら100年前から放置されていた遠い親戚の売れもしない土地の相続人になっていた、という事例が突然降ってわくことになります
所有者不明土地の面積は九州全土と同じ広さです。
決して無関係ではないのです
自分や自分に近しい人が必ず問題に巻き込まれます
知識として持っていて損はありません
突然法務局から照会が来て、知らん顔をしていると10万円の過料!などと言う可能性もゼロではないのです