第9話 くたばれ!
「今回の作戦を説明する! ともかく工場をぶっ壊せ! 以上だ!」
「おう!」
「ヤッハー!」
「ヒャッハー!」
「ちょ、ちょっと待て、親父」
「ああん? どうしたトナ太郎? お前、俺の指示に文句でもあんのか?」
作戦開始前のソリ男内でのブリーフィング。エイトオーの
「落ち着け。冷静になれ親父」
「ああん!? 俺はいつだって落ち着いているぜ?」
「どこがだよ。ともかくな、親父。子供たちが強制労働させられてるってことは、工場ん中にいる可能性があるだろ」
「何がだ? ……あー、そうだな、そうだった。確かにそうだ。俺としたことが全く
「おう!」
真剣な表情のエイトオーに、先ほどまでのネジが外れかかったトナカイたちはどこへやら。一気にピリピリとした雰囲気に車内が染まれば、誰かの歯ぎしりの音など構わない。
やがて完全武装のサンタとトナカイが、先日見つけた工場のシャッターを爆破して侵入するも、中の様子は彼らの想像を裏切るものだった。
「機械が動いてねえな……。今日はお休みか?」
トナ次郎が呟いた通り、並べられた機械は物音一つ立てず、実にお行儀が良い。
「結論にはまだ早い。念入りに確認するぞ」
「へい」
しかし、製造ライン、事務所、更衣室に至るまでくまなく探したが、子供は一人も見つからない。それどころか、沢山の人間が働いていた形跡はあったものの、作業着や私物、文房具、事務機器、書類なども見当たらなかったのである。
「これは、ずらかった後だな。だが、破壊するにはちょうどいい。お前ら、探検ごっこはもう十分だ。建物ごと発破をかけるぞ。爆薬を準備しろ」
「分かりやした」
だが、そのときだった。関係者と思しき人物を発見したと、ロクから通信が入ったのは。
「親父、事務所の奥に隠し扉を発見した。中年の男が一人で立て籠もっている。みんな来てくれ」
「分かった。すぐ行く。……お前ら、発破は中断だ。事務所へ行くぞ」
そうして全員が事務所に着いてみれば、何も無かったはずの奥の壁にぽっかりと四角い穴が空いていた。よく見ると壁の一部に
さて、中はどうなっているかと、首から上だけを出して覗き込んで見るに、何も無い広い部屋には、虚ろな瞳で
「ロク、立て籠もっているようには見えねえが」
「……近づいてみれば分かるよ」
武器も持たずに何をもって立て籠もっているというのか。エイトオーは首を傾げながらもその男に近づくも、
「あーるぇー? さんたさんだぁー?」
男は虚ろな目をした顔を即座にエイトオーに向け、無邪気に声を出した。
「となかいさんはぁー、どこにいったのぉ? ぼく、いいこにしてたよぉ。どーしてぇぇー、ぷれぜんとくれなかったのおー?」
「おいおい、こいつは一体全体どうなってるっていうんだよ。 ……ぼくちゃんはどこから来たんでしゅかー?」
どうも言葉が通じるようには見えないが、或いはと、コミュニケーションを試みる。しかし、返ってきた言葉はやはり一方通行であった。
「ひ、こ、これ以上、近寄るな! 近寄るんじゃない! これ以上近寄ったらこのボタンを押すぞ! みんな生き埋めだぞ! お前らみんな皆殺しだぞ!」
つい先ほどまでと急変したその態度に目を白黒させている間に、中年の男は脇のポケットから大きな赤いボタンが付いた黄色い箱型の物体を取り出し、エイトオーたちに見せる。
「はっはっはー。そんなおもちゃじゃ俺たちは殺せないぜ。えーと、なになに、じ、ば……くボタンか。はっはー、そうか、自爆ボタンか、そうかそうか……、なんだとお!?」
どうせ大したものじゃないだろうと呑気にも高を括ってはみたが、その物体に大きく書かれた文字を見て、緊張感が一気に高まった。
「おい、やめろ、落ち着け。お前も死ぬことになるぞ?」
「構うものか! ジェシーにフラれた俺にはもう未来なんかないんだ! お前らも道連れにしてやる!」
男がその不潔そうな右腕で頭上高く自爆ボタンを掲げるや否や、トナ太郎たちは少しでも生き残る確率を高めようと姿勢を低くして衝撃に備える。しかし、エイトオーだけは諦めず、最善手を実行に移すため、素早く確実にエントツを外し、男を見据えながら声を放った。
「ソリ男、コード・ダビデ、エグゼキュート」
『了解。コード・ダビデ起動』
離れているはずのソリ男の無機質な声が
『……射出補助システム起動成功、
……射線予測システム起動成功、
……姿勢制御システム起動成功。
……熱エネルギー防護システム起動成功、
視界及びシステム共有オールグリーン。
いつでも』
次々と重なり伝わるソリ男の声に六芒星は細かく移動を繰り返し、やがてその中心が正確に男に向けて重なったとき、エイトオーが感情のない声を発した。
「ファイア」
刹那、エイトオーの左眼から
この場にいるものなら、誰もがこれで終わりだと思っただろう。だが、次の瞬間、エイトオーの体を強い電気ショックが襲った。気を失いそうになるも、どうにか意識を保って自爆ボタンを見遣ると、すぐにロクが駆け付けて確保している。
よくやった、とエイトオーは心の中でロクを褒めたのだが、そのロクの行動に我が目を疑うこととなった。あろうことか、確保した自爆ボタンをガンッと拳で強く殴ったのだ。
直後、辺りを無慈悲な電子音声とオレンジ色の光が支配する。
「警告。この建物は今から三分後に爆破されます。建物内に残っている者は直ちに退避してください。警告。この建物は――」
ロク、どうして……。
薄れゆく意識の中でエイトオーが辛うじて見たのは、ロクが「くたばれ!」と吐き捨てながら奥の壁を開いて姿を消した光景。トナ太郎たちが後を追いかけるも、ドアは固く閉められ、行く手を阻まれた。
そして、大きな爆発音と粉塵が世界を支配し、彼らの意識は闇に落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます