第7話 ハーメルン

「親父、こいつはどうにも様子がおかしいぜ」


 最初に異変に気付いたのはトナ太郎だった。


「何がだ? ベンの様子がおかしいのは家を出たときからだろう?」

「いや、そうじゃねえ。同じような子供が合流してやがるんだ」

「なんだと!? トナ太郎、詳し……、じゃねえ。今からソリ男でお前の視界を共有する」

「あいあい」

「ソリ男、トナ太郎のカメラをモニターに映してくれ」

『了解しました』


「……なんだ、これは」


 直後、1枚のモニターに映し出された映像に、エイトオーたち上空班も驚きの色を隠せない。

 ベン・クラークと合流したのは精々一人か二人だろうと思っていたのだが、そこには10人以上の子供たちが黙々と歩く様子が映っていたのだ。場所は既に住宅地からも中心部からも離れ、周囲に人や車の影は見当たらない。そこを同じ方向に向かってぞろぞろと歩く集団。年齢も性別もばらばらで、共通点は子供ということぐらいだろうか。それを焦げ茶の迷彩服を着たファンシーなトナカイ頭の3人が尾行する異様な光景なのである。


「親父、作戦は?」

「……決まっている。続行だ」


「なんでだ!? 子供たちの安全を考えたら、止めるしかないだろう!?」

「オーダーは、ベン・クラークを尾行し、顛末てんまつを報告せよ、だ。俺たちは最後まで見届けなければならないんだ。分かるな、トナ太郎?」


「クソが! ふざけんな! 子供たちをこのまま放っておけってのか!?」

「まあ、落ち着け」


「これが落ち着いてられるか!」

「話は最後まで聞くもんだぜ? 特に俺の話はな」


「う……、分かった」

「オーダーの内容を言ってみな」


「ベンを尾行して、それを報告せよ……。あ」

「この作戦の目的は何だと思う?」


「ベンがどこに行くのか探ること、だな」

「分かってきたようだな」


「じゃ、じゃあ、じゃあじゃあ、じゃあじゃあじゃあじゃあ、親父、親父親父、俺、どうしたらいい? どう動けばいい? 指示をくれ、早く指示をくれよ。完璧にやり遂げるからよ!」

「オーケィィー。いいぞ、お前は実にいい。その調子だぁ。今から指示を出すぞ。一人はそのままベンの尾行を続けろ。残り二人で他の子供たちを歩かないように拘束するんだ。お前たちの服とかなんとか使ってな。その後、拘束した全員の顔をカブリモノで照合して、警察に保護を依頼。簡単だろ?」


「おう、簡単だな! 俺はやる! やってやる!」


 そうしてベンの尾行はトナ三郎が続行。トナ太郎とトナ次郎は瞬く間に子供たちを担ぎ上げ、小脇に抱えて寒くないよう一所ひとところに集めて服で縛った。途中、正気を取り戻した子供に泣きわめきもされたが、エイトオーから見ても首尾は上々といったところか。


 その間にもベンは歩き続け、やがて郊外に建てられた工場跡地と思われる所に踏み込んでゆく。


「親父、こちらトナ三郎。どうぞ」

「聞こえているぞトナ三郎。何かわかったか?」


「恐らくここの工場跡が目的地だな。周りには何もない」

「分かった。お前の視界もこっちで共有するぞ」


「オーライ」


 再びソリ男にお願いすればモニターの一つに看板も表札もない門と大きな建物が映ったのだが、工場跡というのは新しすぎる。


「トナ三郎、お前はベンを保護して家まで送り届けろ。それからその場所に人の気配はあるか?」

「保護了解。人の気配はないが、ほんの少し振動を感じる。何かの機械が近くで動いているかも知れない」


「分かった。すぐに確保に動いてくれ。……ソリ男、トナ三郎がいた工場はどこの会社が所有している?」

『ヘヴンズコールの登録システムに照会。データが存在しません。財団のデータを照会。……現在の所有者はドナルド&コリンズカンパニーです。』


「データが存在しないってのはヘヴンズコールに無断で建てられたってことか?」

『いいえ。あの土地のデータがすっぽり抜け落ちています』


「はっはー! こいつは実にいいぞ! 悪臭がぷんぷんするぜ!」


 エイトオーはそう言って、何度もヒゲを揺らすのだった。

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