第6話 ターゲットを尾行せよ

 ――薄暗い車内で淡く光る12枚の板がその家を監視していた。


 指令書に書かれていた子供の名前はベン、ベン・クラーク。7歳の男の子だ。家族は真面目な両親と、人形が大好きな甘えん坊の4歳の妹。小さな戸建てに一緒に住んでいる。両親が自宅で製造ラインの遠隔監視業務を受託しており、お陰でふらふらと玄関から出ていくベンの外出にも気付くことが出来たという。


 エイトオーとトナカイフォースは、クラーク家への許可うかがいと聞き取りの後、ソリ男の中から外部モニターでターゲットを見張っているが、二日目の今日も特に動きは見られない。本人からの聞き取りでも特に変わった様子はなかったが、両親によれば心ここにあらずと言った感じで外出したのはここ1週間以内のことで、それまでは起きている間は常に動き回っているような快活な男の子だったそうだ。では、彼の周囲で何か変わったことは? と問うも、「家では特に……。エレメンタリースクールでも特別、変わったことはなかったそうです」と首を捻るばかりで原因は掴めない。


 それにしても子供は良いものだとエイトオーはしみじみ思う。俺たちのような老いぼれは、子供に希望を見出し、見る事の叶わぬ未来を託すのだ。振り返れば、俺が根性を叩き直す前は手の付けられない暴れん坊だったトナ太郎、トナ次郎、トナ三郎の3人も、そしてその3人が更生した後に不良たちの頂点に立ったトナ四郎も、随分頼もしく成長してくれたものだ。……トナ五郎とロクは勤め先の会社がマフィアの偽装企業だった。手先の器用さや頭脳を利用されて随分と犯罪の片棒を担がされたみたいだが、それらを叩き潰した後は、辛い訓練にも耐えてよくついてきてくれる。……俺に何かあってもこいつらならうまくやっていけるだろう。

 しかし、気掛かりはある。ロクのことだ。あいつは前に、顔を自ら切ったことがあるんだ。理由を問い詰めても何も言わなかったが、俺やトナ太郎の顔の傷痕きずあとを真似したんだろうとは思う。……あいつは、大丈夫なんだろうかなあ。


「――じ、親父!」

「ん? お、おう? どうした、トナ四郎」

「もう、しっかりしてくれよ。ボケるにはまだ早いだろ?」

「悪い悪い。で、何かあったのか?」

「ターゲットが動き始めやしたぜ!」

「おお、ついにか」


 トナ四郎の報告の通り、一家の家の正面を映しているモニターには、冬の休日の昼下がりに、しっかりと冬支度ふゆじたくをしたベンがトコトコと歩いている姿が見えた。


「各員、行動開始だ! 地上班のトナ太郎、トナ次郎、トナ三郎は尾行を開始。カブリモノを忘れるなよ! 第2形態だ! ロクはクラーク家で連絡要員として待機。お嬢ちゃんと遊んでやれ! カブリモノとオホシサマも準備しておけよ!」


 張り切って指示を飛ばしている間にも、事前の計画通りとトナカイフォースは着々と準備を進めて迅速にソリ男からっていき、見届けた彼は次の指示を出してゆく。


「ソリ男、光学迷彩起動後にフライトモードで上昇。上昇後はベン・クラークとクラーク家、それからヘヴンズコール各所をモニターに映してくれ」

『了解しました』

「上空班のトナ四郎、トナ五郎は俺と一緒に監視だ!」

「おう!」


 こうして敵の襲撃にも備えた万全の構えで尾行を開始したのだが、事態はエイトオーたちの予想を超えて進展していくことになる。

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