12時50分

色々と疑問はあった。

何故30,000Pがあるのか、何故ショッピングモールが作り変えられていたのか、何故読めないスキルがあるのか...。


この時の僕は冷静なフリをしながら、心の中では動揺していたのかもしれない。


「着いたぞ。あそこだ」


「「あれは...」」


田辺さんが次に指さした場所。そこはフードコートだった。

先ほどの武器屋とは一変、いつもと変わらないフードコートがあった。

ラーメンに中華料理、牛丼までいつもと変わらないお店が並んでいた。


一つ違うとすれば、誰もいない。というところか。


「ここでさっき使ったポイントで食事が出来る。券売機のとこ触ってみろ」


Name/中華料理

・ラーメン 500P

・餃子 300P

・チャーハン 150P


「「すごい....」」


先ほど武器を購入したときと同じような画面が目の前に表示された。


「まぁ今は飯食う気にもならないだろうから後で食べにこよう」


「「あああああああ!!!」」


あいりちゃんが急に叫んだ。


「ど、どうした急に!?」


「「すいません。先生や友達に連絡取らなきゃと思って....」」


そういうとあいりちゃんはポケットからスマートフォンを取り出した。

確かに。今までいろいろなことがあったせいですっかり忘れていた。

田中さんや会社に連絡した方がいいだろう。


「「あれ...電波が繋がらない...」」


「そういうこと。モンスターが現れるようになって、通信が出来なくなった。」


「「えぇ....それじゃあ誰とも連絡取れないんですね...。」」


あいりちゃんはとても落ち込んだ様子でしゃがみ込んでしまった。

田中さん無事だろうか。きっと無事だろう。あの人ならうまくやっているだろう。


「落ち込むのは分かるが、無事を祈るしかねぇ。なんなら俺たちもいつ死ぬか分からねえ。とにかく今は状況の整理と少しでもこの世界に慣れることが最優先だ」


「「はい。ありがとうございます田辺さん。」」


「おう。っと、もうこんな時間か。次が来るぞ、ついてこい」


田辺さんは時間を確認し、裏口に向かって歩いて行った。

時刻は12時50分


次ということは、モンスターが来るってことか。

裏口の近くにはエレベーター2台がありその横にはお客様用トイレがあった。


「エレベーターで2階に行くぞ」


恐らく従業員用のエレベーターだろう。装飾はされてなく搬入などで使うような見た目だった。


「「2階に行くんですか?」」


「あぁ、2階から外を見渡せる場所があるからそこで監視だ」


エレベーターに乗り2階に着くと庭園のような広場があり、そこから外を見渡せるようになっていた。


「ここでお前たちを見つけたんだ。モンスターの狙撃も出来るしな。もっともさっきみたいな小さいやつは無理だが...」


田辺さんはスナイパーライフルを構えると少し残念そうに呟いた。

正直小さくても大きくても狙撃するだけの勇気がこの人にはある。素直に尊敬した。

きっととても優しい人なんだろう。僕たちのこともここまで面倒見てくれてる。

何か役にたつことをしないとな。


「ところで田辺さん、僕たち以外に人はいないんですか?」


「あぁ...いるけどな。いるけど、あんまり関わらないほうがいい。とりあえず今回が終わったら紹介するからよ」


「「あれ見てください!」」


あいりちゃんが驚いた様子で声を上げ、指を指した。

見てみるとそこには大型で目が一つしかついてない二足歩行の化け物がいた。トロール...なんだろうな。

まったく...これじゃ本当にゲームの世界だ。どうなっているんだ。


「おいおい...まじかよ...あれはやばい」


「「人!人が居ますよ!!」」


トロールの近くには走ってこちら側へ逃げてくる人たちがいた。その数は5人くらいか。


「あれは無理だ...残念だけどな。」


「「どうしてですか!狙撃しましょうよ!!ここからなら狙えます!」」


あいりちゃんはそう叫ぶと先ほど購入したライフルを構えた。


「ばか!やめろ!!こっちに来るだろうが!!」


「「だって!あの人たち死んじゃいますよ!!!」」


田辺さんとあいりちゃんが大声で怒鳴りあう。

どちらの気持ちもわかる。田辺さんも悪気があって言ってるんじゃない。

ここにいる人たちに危険が及ぶから心を鬼にして言ってるんだろう。


バサッ


「「え...?」」

「おい兄ちゃん!!何してんだ!」


僕は2階から飛び降り、着地と同時に前回りをし衝撃を散らしながら起き上がった。

どうしてと聞かないで欲しい。自分でもよくわかってないんだ。

こんな身投げみたいな行動。田中さんには怒られそうだな。


「「総司さん!!!!!!」」


後ろへ振り向きあいりちゃんに軽く手を振ると、僕はトロールに向かって走り出した。


「「だめ!!!私も行く!!」」


「おい!無駄だって!!やめろ!」


あいりちゃんも飛び降りようとしていたが、田辺さんが無理やり止めていたのが見えた。



「はぁはぁはぁお兄さん助けに来てくれたのか?」

「ありがとうありがとう....」


「とにかく、ここに密集していたはだめです。あちらの方まで走って!」


避難してきた人たちにショッピングモールの裏口に向かって走るよう指示を出した。


およそ50メートル先くらいにはトロールがいる。


何故このような行動を取ったのだろう。英雄願望でもあったのかな。

それとも、スキルを試してみたかったからか。


いいや、違うな。


本当は現実かどうか確かめたかっただけだったんだ。

人を救いたいなんて大それたこと言えないし、思ったこともない。出来るはずもない。


「≪瞬歩≫」


シュン


スキルを使ってみると先ほどあいりちゃんの後ろへ移動したときのようにスムーズに発動できた。

だが50メートルはさすがに無理だったようで、10メートルくらい進んだところに移動した。


「なるほど。この距離が限界ってことか。」


移動範囲の確認と残り使用回数をおおよそ把握できた。


「あと3回が限度ってところかな。」


トロールは片手に大きなこん棒を持っていた。

あれに当たればひとたまりもない。そう思うには十分な大きさだった。


こちらの攻撃が通じなかったら≪瞬歩≫で逃げればいい。そう思っていた。


グオオオオオオオオオオ


ドス

ドス

ドス


購入した刀を抜刀し、構えて待つ。

これで通じなかったらすぐに逃げよう。


トロールとの距離


20メートル....


10メートル....


9....


8....


7....


「≪瞬歩≫」


シュッ


トロールの後ろへ≪瞬歩≫で移動し、胴体と両断するかのごとく刀を振りぬいた。


キンッ


「なっ!?」


トロールの体を両断するかと思いきや、刀が胴体に触れると同時に折れてしまった。


ブンッ


バキッ


ドサッ


トロールのこん棒をもろに食らい、吹き飛ばされ地面に転がった。


あぁ、現実だわ。これ。


とてつもない激痛に吐き気を覚え、死を覚悟した。


「こんなことなら母さんにもう1回会いたかったな。」


つまならない人生だった。剣道と空手やってるときは楽しかったな。


親父、反攻してプログラミングの仕事なんかしてごめんな。


母さん。いつも友達いるよ。とか嘘ついてごめんな。


.

..

...

....

.....


グオオオオオオオ


トロールがこん棒を振り上げた。


嫌だ....死にたくない。


まだ彼女すら出来たことないんだ!こんなんで死ねるかよ!


「なんか知らないけどあるんだろう!スキルが!」


読めないけどなんとなく分かっていたスキルの名前


ゲー??L??e? ???


「≪ゲート≫!!!!」



ブォオオオン






そこで僕は意識を失った。

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