　開けるしかない……。

　そう思いながら、特務機関長官室にがらくたのように落ちている小箱を拾った。

「ライ」

　酔っているのか、ぐらぐらする冷たい手で、俺の腕を掴んだお前は、辛そうに金色の瞳を消えそうな月みたいに細くした。初めて見る表情だった。

「ライ、開けるな」

　懇願するような、咽ぶような声に、俺の心臓は潰れそうになる。

　神（ジン）の冷たい、ホログラムで造られた触れることのできる肩に触れて、こいつを立たせてやる。

「いいんだ……」

　なぜかそんな台詞（せりふ）が口を衝いた。

　箱の中には、いつか見た一粒の真珠が入っていた。

「……どうして……どうしてライ（おまえ）はここを辞めないんだ！」

　酔っているのか、それが真実なのか、狼狽する神（おまえ）を俺は初めて真っ直ぐ見つめた。

「なんで……なんで…………」

　縋るように崩れたお前を、俺は隣に座らせる。

「あれはなんだ、……神（ジン）」

　手元にあった酒瓶を適当に煽って、座り込んだまま窓の外を見つめる。

　いつもお前がそうしてきたように。

「……」

　お前を見てきた俺には分かっていた。

「お前の口から訊きたい。言ってくれ、神（ジン）」

　お前が初めて、震えているのが分かった。

　静かに膝を抱えたお前の声は、不思議なほどに透き通っていた。

「ホーリーコーラル。滅びのメタファーだ」

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