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「全部、終わったよ」


 レッドゴールドの箱を床に投げて、お前は寂しそうに笑った。


 いや、おまえは寂しさなんて捨ててしまったかもしれない。だけどそう思った。


「要らないのか?」


「さぁ。……でもね、ライ。本当に悪いことをしたい気分なんだ」


 バーボンが水のように消えていく。


 TVのニュースや、雑誌でお前のことを見かけることはたびたびあったし、お前の指示で色々やった。


 でも、こんな風に向き合うのは、久々だった。


 特務機関長官実の空気は、タイムマシンのように一定のノスタルジーを届けていた。


「懐かしいな……」


 窓から月を仰ぐ。


 その瞳は、いつか見たお前のままだった。


「話せよ」


 何があったのか……


 くらくらする頭を振って、俺はお前のグラスに薔薇のラベルのバーボンを注いだ。


「……珍しいな」


 驚いたようにこちらを見るお前の瞳を真っ直ぐに見る。


 俺は、いつもただ側に居ようとした。


 ……お前の想いを聞こうとはしなかった。


「話すのは、苦手だけど」


 嘘だ。


 俺が、聞けなかっただけだ。


 バーボンのグラスがカランと響く。


「ライも飲めよ」


 返盃を黙って受け取る。


 そこに絆なんて、在りはしないのに。



 お前の傷も、抱えるものも……


 知りたくなかったのは、それを聞いて何も出来ない自分自身の姿だ。

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