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 暗い水の底——。


 アタシたち水中チームは、再び東京湾海底に潜り込んでいた。


「ほっしーちゃん、あったよ」


 海底神殿の壊れた残骸がモニターに映っている。


「オッケー。変形!!!」


 イルカから人型に姿を変えて、アタシたちはその残骸をHyLA《ハイラ》が用意した巨大な容量の亜空間格納庫イベントリに収納していく。


「しかし、綺麗に消えたなぁ……」


 リイヤが尻尾をうまく操作して残骸を次々に格納庫イベントリに運ぶ。


 少し、時間がかかってもリディアも水中で人型に変形ができて、すぐに作業に加わった。


 無事に戻ってきて、今回はリディアと一緒に作業できるのが嬉しいし安心する。


「本当、綺麗に消えたね」


 HyLA《ハイラ》の水中ドローンでライトアップされた灰色の海の中は、不思議な静謐せいひつさに包まれていた。


 イヤリングにも、反応はい。


 足の運びの動きに合わせて、砂利や泥が舞うけれど、永遠に視界が遮られることはなく、また静かに灰色の海の中の景色に戻る。


 あれだけった、黒いもやはどこに消えたのか……。


「こうして見てると、なんかいいね。東京の海も」


 モニターの向こうの、終わりの見えない灰色見て、弟が言った。


不謹慎ふきんしんだよ」


 そう言ったけど、アタシもそう思った。


 どこかで青に繋がる、灰色の海を。

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