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 9月19日まで、あと59分。


 みんなから集めたプレゼントを抱えて、アタシは205号室、幸子さちこの部屋の前でため息をついた。


 幸子さちこは今日、帰ってこない。


 誕生日当日も、帰ってこないかもしれない。


 でも今、アタシは準備したかった。例えすぐに届かなくても。


「いいの?入っちゃって」


 久しぶりに会ったショーコは、身長も髪も、美しく伸びていた。


「……うん、雪子せつこさんに許可はもらってるし」


 アタシは幸子さちこの部屋の鍵を開けた。


「わ……」


 意外…………女の子らしい部屋を想像していたけれど、幸子さちこの四畳半と六畳はどちらも、モノトーンのシンプルな部屋だった。


 六畳のほうの壁の一面は全部鏡張りになっていて、白い床の上には、いくつものステップを刻んだみたいな跡。


 三面の黒い壁の上部には、シンプルなスポットライトがいくつか取り付けられている。


「鏡、飾っておこうよ。さっちーが鏡見るのが嬉しくなるように」


 アタシの迷いを拭うように、ショーコが微笑んだ。


 折り紙やグラシン紙で作った花を飾って、プレゼントを並べていく。


 幸子さちこが幸せな気持ちになれるように。


「ミカちゃん、遅くなったわ」


雪子せつこさん!由子ゆうこさん!」


 鏡に、ルージュで文字を書いていく。


 With Love,


 この気持ちが届くように……

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