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「どうしよう……」


 幸子さちこの誕生日は、明日9月19日。


 昨日も今日も生誕祭ライブのリハーサルで、明日の本番は時間なんてあるわけない。


 ライブに申し込めば良かったんだろうか。


 でも、それじゃ、幸子さちことの遠さを実感するだけだ。


 幸子さちこのパフォーマンスは凄いと思うし、ハピたんの歌は正直、好きだ。


 けど、それは幸子さちこじゃない気がして。


 うまく、言葉がはまらないのが、ずっと完成しないパズルみたいでモヤモヤしていた。


あね、僕、当日じゃない時もあったけど嬉しかったよ」


 シュウジの11月の誕生日。射撃シューティングの試合と重なってしまったことがあった。


 どんどん勝利を重ねていく弟をアタシは祝うことが出来なくて、結局おめでとうと言えたのは、月が変わったクリスマスだった。


 悲しい気持ちと、弟の喜びを祝いたい気持ちと、冷たくて綺麗な空を見上げて、誇らしい気持ちにもなった。


 母と弟と、アタシで食べたチョコレートケーキは、ほろ苦かったけど、シュウジの淹れてくれたカフェラテに似合って、おいしかった。


「ほっしー」


 トレーニングの後、ジュンがブックライトを投げて寄越した。


「なにか仕込むんだろう?三女に」


 サブローから、幸子さちこの部屋の鍵は貰ってる。


「……多分」


「なんだソレ」


 自信が無い、なにもかも。

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