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「もう無理……」


「ん?」


「またそうちゃん何にも言わないし……」


「……実華みか、泣いてる?」


「えっ?」


 髪にかかった水滴が、洗面台にぽたぽたと滴っていた。


「……違う、……顔洗った。洗面室で」


 でも、泣きたい気持ちだった。


「広い?洗面室」


「……広い。仮眠室も」


「そういう場所、あるんだ。……ねぇあね。別に……話さないわけじゃないと思うよ」


「……」


「顔拭きなね。ちゃんと」


 分かってる。


 不安で、誰かのせいにしたいだけだ。


かえで、寂しがってる?」


「少しね。でも大丈夫だよ」


「分かった」


あねが帰って来る日、ほうれん草多めのチーズリゾート作るよ」


「分かった。そうして」


「うん。じゃあね!」


 アタシは通信を切った。


 洗面室の自動ドアが開くと、穏やかな白い空間と仲間の寝息。


「メイテルさん、アタシにもパジャマ貸してくれますか?」


 メイテルさんはにっこりと微笑んだ。


 丁寧にセーラー服を畳んで、かえでの色のグレーのスカーフを手首に巻く。


 袖を通した白いパジャマは、ふわふわで着心地が良かった。


 白い布団の中で、広い、雲みたいな天井を見ていると、だんだん眠くなってくる。


「ほうれん草多めのチーズリゾットか……」


 アタシの大好きな味。


 きっとおいしい気がする。


 ちゃんと、分かってる。

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