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「ロンドンの売店で買って来たんだよー☆ホラ、選びな選びな」


 幸子さちこはドーナツの箱をずい、と押し出した。


「旨そうだな。ひとついただこう」


「ちょ!ジュン氏!ミカが先でしょー!!」


「いいよ、アタシは緑のやつにしてみる」


 ジュンが摘んだ鮮やかな赤いリングのドーナツも美味しそうだったけど、アタシは若草色のドーナツを選んだ。


「えっと、ピスタチオだね☆」


 幸子さちこは黄色のやつ。


 カラフルなドーナツを見ているとちょっと元気になって、味も初めての感じで美味しかった。


「ミカ、これあげる」


 幸子さちこは手品みたいに、ポケットから綺麗なグレーのスカーフを取り出した。


「カスタマイズしてもいいんだって。制服。なんかさ、かえでちゃんの背中みたいじゃない?」


 灰色は、アタシが本当に好きな色。


 新宿の空みたいでもあって、かえでの背中の色。太陽に当たると銀色に輝いて、暖かくて、愛おしい。


 灰色が好きなんてちょっと変かなと思って、銀色が好きと言ってるけど(銀色も好きだけど)正確に言うと、落ちついた銀色みたいな灰色……このスカーフの色が一番好き。


 黒いスカーフを外して、グレーのスカーフを付けると、かえでがそこにいるみたいにあったかい気持ちになった。


「可愛いじゃん、ミカ☆」


「……ありがと」

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