192.5 道の先は虹。卒業のメッセージ
卒業式の日のおやつは、やっぱり卵焼きだった。
一通り写真を撮ってから、アタシは家で麦茶と卵焼きを食べて、動きやすい服装に着替えた。
猫柄のグレーの大きめパーカーにジーンズ。
アタシはだいたいこれだ。
最後だし、飾りゴムはそのまま付けていこう。
小学校のイベント毎の打ち上げは、だいたい決まったお店に行く……というか、いつもここに行く。
今度行く中学のすぐ側にあるステーキハウス。
ドリンクバーとサラダバーが食べ放題なので、育ちざかりのアタシたちにピッタリなのだ。
列車の食堂車を模したダイニングを貸し切ると、特別な気分になる。
ドリンクバーで、いつもアタシはメロンソーダ。
家では飲めない味と、綺麗な透明なグリーンに、目もココロも楽しい。
ショーコはいつもアイスティーだ。
アタシたちは飲みものを準備万端にして、並んで座る。
親たちは親たちで固まって座り、楽しそうだ。
テーブルにはサラダバーの小皿と、スプーン、フォーク、ナイフのセット。
今から皆んな分のステーキ(またはハンバーグ!)が焼かれて来るのだ!!!
迷った……迷ったけどアタシはステーキにした!
晴れの日だもん、ステーキが食べたい!
少し、時間がかかるから、サラダバーをよそいにいく。
大ホールにあるサラダバーにはありとあらゆる野菜がシャキシャキに冷えてて、ドレッシングは和風たまねぎ、中華ごま、フレンチドレッシングの三種類。
いくつかのゼリーやフルーツ、プチケーキまである!
でも待って。
今日のメインは肉。
慌てずにアタシは上品に野菜とプチトマトを盛り付ける。(ポテトサラダも忘れずに)
わちゃわちゃ立ったり座ったり、教室の延長みたいな楽しい時間の中、メインが登場し、歓声が上がる。
この時ばかりはみんな席に座って、6年間……そう!6年間。
頑張った自分に想いを馳せて、肉を堪能するのだ。
付け合わせのポテトも、にんじんのグラッセも、なんて美味しいんだろう。
やっぱり、ご褒美はステーキ。
幸せを噛み締めて、メロンソーダで爽やかな気持ちに浸る。
肉とソーダ。
いいよね!
それからお喋りしたり、何度かサラダバーを行ったり来たりしてると、本当に満たされた気持ちになってくる。
でもアタシはひとつ気になっていた。
ショーコの隣で、パイナップルにトングを伸ばす。
「ねぇショーコ」
ショーコは、カラフルなゼリーを綺麗に盛っていた。
「ん?」
「あのさ」
アタシはパイナップルをショーコの皿にトロピカルに乗せてやる。
「ありがと」
ショーコはゼリーを虹のように散らしてくれた。
「ありがと……あの、一緒に戦わない?」
ショーコの動きが止まる。
「……ハイドロレイダーで?」
「うん」
ショーコは真剣な目で、アタシを見つめて、目を伏せた。
「……ごめん。私、栄養士になりたいから」
「……そっか」
そうだった。
「それに、誰でも適合するわけではないと聞いたよ」
「あ、……そうか」
そういえばそうだった。
「断ったから、もう友だちじゃない?私たち」
「や、まさか!そんなわけないよ」
道を分つとも、アタシたちは友だちだ。
「ありがと、ショーコ」
「ん」
ショーコはアタシの皿に、プチトマトを二つ乗せた。
沢山笑って、お腹がいっっっっぱいになって、カラオケまでして、アタシたちはそれぞれの帰路につく。
こんなに楽しいのは久しぶりだった。
「
すっかり暗くなった夜の下、街の灯りを頼りに、アタシは母と肩を並べて歩いていた。
母のウィンドブレーカーが夜風にカシャカシャと鳴っていた。
「6年間、ありがと」
「こちらこそ」
振り返ると少し切なくて、精一杯楽しい夜。
アタシは皆んなを、きっと忘れないと思う。
……って、半分以上の人が同じ中学だし、受験組もまた会うんだけどね!
星はほとんど見えなかったけど、グレーの綺麗な空だった。
「いやあ、いい夜だね!」
大袈裟に、芝居じみたセリフを言ってみると母も楽しそうに言った。
「いい夜ですなぁ」
本当にいい夜。
……だからアタシは気づかなかった。
サブローからの、一通のメッセージに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます