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 あおい気泡を足掛かりに青い波間を駆け上ったハイドロレイダーが、珊瑚礁ディストレスを見下ろした。


 卒業式じぶんのことを優先して良かったのだろうか……


 メタルシルバーの躯体が、青い世界で、更に輝いていく。


「……薄明はくめいの光が、白炎びゃくえんとなる」


 水素針すいそしんが、天を示す。


「アタシの力を光に変えて」


 アタシには、力なんてない。


「降り注げ」


 それでも。


「ディストレス……」


 悲しみを、アタシの大切なものを傷つけるやつらを……


「バーキング……」


 あおい空が……光を帯びていく。


「アロー……」


 とは出来ない……。どうしても……。


「痛い……?」


 気づくとははが、アタシの頬にハンカチを当てていた。


 卵焼きの匂い。


 今日のおやつは卵焼きなのかもしれない。


 ……まだ、体が痛かった。


 それでも、終わりにしたいと言い出せないこの気持ちの理由がわからないのが苦しい。


「ミカ。6年間頑張ったね」


 アタシはははの胸で泣いた。


 ははによく似合う、グレージュのスーツが涙に濡れていく。


「このじっ時間にっ!終わるっなら……」


 アタシも乗れた。


 そうだね……そうだね……と母はアタシを抱きしめた。


 アタシは……どうしたいんだろう。……何が辛いのかわからないのが苦しい。


 コーヒーの香りが苦くて、画面の向こうの青い世界はただ、煌めいていた。

 

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