186

 久しぶりに鏡をちゃんと見る。


 グレーのワンピースを着たアタシは、少し上等な感じに見える。


 雪子せつこさん作のブローチが、胸の真ん中でキラキラと光る。


「ミカ、準備出来た?」


 母もしゃんとしていた。


 スラッとしたスタイルに、グレージュのパンツスーツがよく似合ってる。


「うん」


 髪をきゅ、と銀の飾りゴムでおさげにして(ショーコと色違いのやつっ)


 ははの前で回って見せた。


「いいじゃん!コーヒー入れたよ。シュウジいないから味はいまいちかもだけどさ〜」


ははのもうまいよ」


 ははのコーヒーは、少し大人の味。


 今日にふさわしい味だった。


「……ちょっと早くし過ぎたね、準備。ははっ」


「備えあれば憂いなし!」


 コーヒーを啜りながら、TVのリモコンをONにした。


 陽だまりにいるかえでみたいな色の、メタルシルバーのハイドロレイダーが、透き通るハワイの海の上をけていた。


 あれには、シュウジとそうちゃん、ジュンが乗っている。


 迫り来るシーサーペントが、次々と薄明光線の中に消えていく。


 やがて、色とりどりの巨大な珊瑚が今にも口を開けそうな青い世界に、泡のようなあおい気泡が、宝石みたいに積み重なっていく。


(珊瑚って……動物じゃないのかな……)


 あれは、ホーリーコーラルリーフだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る