階段を昇る春風……——別れのハミング

157

「で、あの長髪君、なんなの?」


「なんなのってなんなのよ?……ていうか幸子さちこ、仕事は大丈夫なの?」


 学校帰り、三叉路で待ち構えていた幸子さちこに、アタシは訊いた。


 春休みのツアーに向けて、幸子さちこは忙しいはずなのに……。


「今日は休憩!いーから帰ろ!☆……てゆか、まさかあの長髪君も地下基地で暮らすの?」


 強引に手を引かれて、アタシはセキュアランドセルの肩ベルトを直しながら、帰路にく。


 シルバーアッシュの背中にしっくりくるセキュアランドセルは、あんまり新しい型では無かったけど、6年間のアタシの学校生活と安全を支えてくれた大切なカバン


 もうすぐお別れと思うと、しんみりしてしまう。


「ミカ?」


「あ、あぁ。ジュンは暮らさないみたい。調布に家があるんだって。まぁワープ回路は繋がってるみたいだけど」


 いたわりに興味が無さそうに幸子さちこうつむいた。


 節分を過ぎて、段々と日が長くなってる気がする。こんな午後は、お気に入りの公園で、あったか〜い缶ミルクティでも飲みたい気がした。


「ねぇ幸子さちこ、西大久保公園で缶ミルクティでも飲んでく?」


「えっ?」


 幸子さちこは驚いたように、振り返った。


「あ、うん」


「髪色変えて、フード被りなね」


 アタシは幸子さちこに、パーカーのフード被せてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る