158

 ベージュのベンチにベージュのパーカーの幸子さちこ


 青空みたいなスカートが春風に揺れて、膨らみ始めた桜のピンクを見上げる瞳にエモーションを覚えた。


「はい、缶ミルクティ」


「ありがとミカ。いい公園だね」


「ん」


 小学校の近くの小さな公園。


 いくつかの古びた遊具に赤い滑り台と蔦が伸びた屋根付きの砂場。


 ポプラが二本と一本の桜。


 小さな公園だ。


 アタシも幸子さちこの隣に座って桜を見上げる。


 怖さもぎる。


 でも、綺麗なものは綺麗だ。


 プシュ、と缶を開けると、ふんわりと甘い香りが昇って来る。


 ショーコとも良く来た公園だ。


 アッサムの苦味が、懐かしい記憶を呼び覚ます。


 苦みも、いいことも。


 この、ミルクティみたいに優しいことも。


「ミカ、ジュン氏ってさ、何であんなスタイルなの?」


「え?」


 幸子さちこはジュンの話をする時、遠い目をする。


 ジュンのお父さんも亡くなっているとシュウジに聞いた。同世代だし、なにか複雑なシンパシーがあるのかもしれない。


「最初は長めのマッシュヘアというか、格好も詰襟の中学生って感じだったけど。まぁ、男子だからじゃない?」


「何それ」


 不服そうに、幸子さちこは缶に口を付けた。


 ジュンはそうちゃんと少し似てる気がしていた。


 いつか、元気になるかもしれないし、そう思いたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る