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「ジュン君、こっち、こっち」


 ミッションは終えたはずだ。


 だが、終えたからこそミーティングがあるらしい。


 HyLaハイラのシャワールームから出たわれを、シュウジが待っていた。


「この建物は得体が知れないな。だが、内装は思い描いていた特務機関そのものだ」


「分かる。だよね!」


 心なしか、シュウジの声が弾んだ。


「この通路の突き当たりが、ワープエリアになってるんだ」


 まるで宇宙船のような光る通路を抜けて畳3畳程度の袋小路にシュウジが手をかざす。


 i-comアイコンのモニターが展開し、行き先のリストが列挙されていた。


「ミーティングエリア。これを選んでね」


 薄く輝くグレーのワープタイルが現れる。


「これに乗るのか?」


「……ジュン君」


「何だ?」


「僕、知ってるよ。相良さがら・スレート・アルトゥールさんのこと。ファンだったから」


 シュウジの笑顔に偽りは無かった。


「そう……か」


「……じゃあ、向こうで」


 シュウジを追い、ワープタイルを踏む。


 TVでよく観る新宿の風景と、空き地とアパート。


 シュウジを追い、小さなドアを開ける。


「おー、ジュン、お疲れー」


 控え室のような和室に、ほっしーの笑顔があった。


 終わりの見えない悪夢と、日本茶の暖かい匂いが混ざる。


 我は思いがけず、父の笑顔を思い出した。



 

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