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「……相良さがら純之助じゅんのすけ、昇るんだ」


 何故……我は何をすれば良い?


 体が……少しも動かせない……。


「いつも通り、昇るんだ」


 目の前には、仄暗い階段が続いている。


 先刻さっきまで我は……スイスでハイドロレイダーに乗っていたはずだ……。いや、それも夢だったのかもしれない。我のような者が……そんなはずはない。


 緋色の男の言うままに、仄暗い階段を無感情で昇る……それが我だ。


「昇るんだ!」


「い、嫌だ……」


 辛うじて出た声に、自分で驚いた……。


 階段に這いつくばり、両方の手の平がひんやりした。動こうにも、体が全く動かなかった。


「わたな……べ……」


 渡辺わたなべ……誰だっただろうか。


 心にもやがかかっていた。


 だけど苦しい……。申し訳ない気持ちで壊れそうだった。


「君の、せいじゃない」


 男が、そう言った気がした。


 だけど、俺のせいだ。何もかも。俺は生きていく価値がない。生きていても誰も救えない。


「死にたい……のかい?」


 カシャン、と右手の先に、何かが触れた。


 護身銃サイコプラズマワルサー……軍用のやつだ……


 男を見上げる。


 気味悪いゴーグルに気味の悪い長いコート。これで……終わらせらるのだろうか……


「これは幇助……だぞ……」


 我は震えながら、銃口を見つめた。


「君がそうしたいなら、止めない。」


 男の声が冷たく響いた。

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