72.5 Are you ready?

「もーお姉!!ちゃんとやってよね!!」


「はぁ!?やってるじゃない、だいたいいつもふざけてちゃんとやらないのは幸子さちこでしょ!あ、わかった。シュウジ君がいるからだ。いいとこ見せようと思って」


「違っ!!!って言うか由姉ゆうねえも何やってんの!?折り紙?そんな暇ないよ!!」


「あーもう、雪姉せつねえ幸子さちこも騒がしいんだから、はぁ……」


 私は HyLAハイラの厨房の片隅で必死にもちきびをミキサーで粉砕していた。


 足りない、こんな量じゃ、間に合わない……


「今から蒸すんだよ!?っていうか、お姉が出来るって言ったんだよ!?600個のお団子作れるって!」


「出来るわよ!幸子さちこも朝ドラ観てたでしょう!?『蝶子とあん』の蝶子役で、日本の皆んなに数多の和菓子を作ったきた私よ!?出来るに決まってるじゃない!」


「じゃあなんで蒸し器がイメージできないわけ!?役作りで取材しただけでしょ!?っていうか、由姉ゆうねえ本当に何やってるの!?早く上新粉と砂糖と塩!混ぜて!!」


「あのねぇ、何でも器が大事なの。600個のお団子を紙皿に乗せたって映えないの。ミカちゃんを喜ばせたくないの?食べ物があるだけじゃ女の子は喜ばないのよ」


「——っ!!!……もう、いい!!!」


 私は厨房を飛び出した。


 もういい、っていうか、ミカを喜ばせようって提案したのは私なのに、なんで由姉ゆうねえの手柄みたいに……もういい、絶対間に合わない。ミカはフィナンシェも好きだから、沢山買っておけばいいんだ。


  HyLAハイラの長い廊下を私は駆け抜けた。今からなら間に合う。おねえたちは頼らない!


幸子さちこさん!?」


 曲がり角で、シュウジ君の台車とぶつかりそうになる……


「蒸し器、まかないのスタッフの方に借りてきたよ、このサイズで、100個ずつ蒸せば大丈夫だって。もしかして他にも足りないものありましたか?」


「あっ……いや、えと……ま、間に合わなくない……だから、私……」


「……かもしれないですけど、僕たちで出来るところまでやれば、実華みかも、そうちゃんも……たぶん玲鷗れおん君も、喜んでくれるかもしれないなって。……うーん、でも確かに間に合わないかもしれないですね。戻って作戦練り直しましょっか!」


 シュウジ君の笑顔に泣きたくなる。


「ごめん」


 シュウジ君は年下なのに。ゴーグルおじさんはわからないけど、間に合わなくてもミカは怒りながら一緒に作ってくれる気がした。怒りもしないかもしれない。


「ごめん、ね……⭐︎なんでこうなんだろう、お姉たちと私」


「いい人ですよね、雪子せつこさんも由子ゆうこさんも忙しいのに、幸子さちこさんも」


「どーかな!☆ほら、今日乗ってくれてるチームにもさ、 HyLAハイラのスタッフの人たちにもさ、何かしておかなきゃ面倒っていうか?☆そんな感じ?☆」


 違う、私はミカに元気になってほしかった。応援してくれてるスタッフの人たちにも。

 お姉たちと協力して、何かをしたかった。


 だってそのほうが、皆んな元気になるって思ったから。


 でも、それをいつから口に出せなくなってしまったんだろう。


「そうですね!」


 シュウジ君は、私の強がりと本音と、どっちに返事をしてくれたのか分からなかったけど、シュウジ君の方がいい子だと思うけど言わない。


「台車なら、icom《アイコン》で出せるから、私も蒸し器運ぶね☆」


「はい!」


 厨房に戻ると、みたらしのいい匂いがしていて、凄く可愛いペーパークラフトのお団子を置くやつ(三方って言うらしい!)が沢山出来ていた。


 でも私は謝らない代わりに、きびを懸命に砕いて、みんなで混ぜて次々と蒸し器に投入した。


 ほっこりといい匂いがして、シュウジ君があったかいお茶を淹れてくれた。


 この作業、間に合うか、間に合わないか、わからない。


 ひとり、200個。

(シュウジ君は、聖秋桜セイントコスモスの様子を見に行った)


 あつあつのお団子、やったことは、無い!


 でも、出来たら絶対可愛い!嬉しい!


 皆んな、何かを頑張ってる……


 皆んなを元気にする、それが出来る私たちでしょ!☆☆☆


 Are You ready?


 私たちは袖をギュ、っと捲った。










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