36

 優しい雨が、しんしんと降っていた。


 こっぺ、こっぺ……こっぺ、こっぺ……


 雨音を聞きながら、アタシはちゃぶ台のおひつからご飯をよそっていた。


「基地内は外の世界の天気と連動しているんだ」


 白いどんぶりを受取り、サブローが言った。


 アタシは空席に置かれた、緋色に塗られたお箸を見つめた。


 シュウジは銭湯に、母はHyLAハイラに出勤し、そうちゃんは……またこもってしまった。


 アタシはおひつに残ったご飯を、おにぎりにした。


 スチール風の階段をカンカンカン……と降りていき、下の階の扉を開ける。


 鍵はかかっていなかった。


 下の部屋は、下の階のお父さんとお母さんが生きていた頃のまま、綺麗に片付いていた。


 窓辺の文机ふみづくえには一輪の薔薇ばら。畳の上にそうちゃんが転がっている。


 アタシは花瓶の水を変えて、おにぎりを文机ふみづくえの上に置いた。


薔薇ばらAIdエイドだから意味ない……」


 そうちゃんは動かずに言った。


 アタシは窓を開けて、文机ふみづくえの引き出しから色鉛筆を取り出して、絵を描いていく。昔みたいに。


 雨が、しんしんと降っていた。


「みっちゃん、辛いんだ……」


 三年で癒えるわけない。


「……うん」


「……あかは、緋色のあかほのおは火へんにおとしいれるに似た字なんだ……」


 おとしいれるて。


「……うん」


 アタシは少し笑ってしまった。



…to be continued

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