【岐路に立たされた志桜里】

(ツクツクホーシ、ツクツクホーシ、ツクツクホーシ、ツクツクホーシ…)


時は、9月3日の朝9時半頃であった。


この日も、予想最高気温は35度を超えると報じられた。


日本の南の海上で発生した台風21号がまき散らした暖かく湿った空気が西日本に次々と流れ込んでいた関係で猛暑になっていた…


その中で、志桜里しおりは家の庭にいた。


志桜里しおりは、物干し台にセットされている洗濯竿さおに干していた洗濯物を取り込んでいた。


この時、かおるが庭にいる志桜里しおりを呼んだ。


志桜里しおりさーん。」

「あっ、はい。」

「(家政婦)紹介所の所長さまがお越しですよ。」

「あっ、行きます。」


志桜里しおりは、大急ぎで洗濯物を取り込んだあと大広間に入った。


ところ変わって、大広間にて…


志桜里しおりは、紹介所の所長さんと一緒にお話をしていた。


この時、志桜里しおりは所長さんから神谷家このいえの家政婦は9月いっぱいで終了すると予告した。


志桜里しおりは、つらい声で言うた。


「終了…神谷家このいえではたらくのは9月いっぱいで終了するって…」


所長さんは、心苦しい声で志桜里しおりに言うた。


志桜里しおりさん、ごめんなさい…」


志桜里しおりは、ものすごくつらい声で所長さんに言うた。


「なんで9月いっぱいで終了になるのですか!?」


所長さんは、ものすごく困った声で志桜里しおりに言うた。


「雇い主の奥さまが要介護度4と診断されたので、周囲の助けがないと生きていけないのよ…そのことは、聞いているよね。」

「はい、聞いてます。」

「他にも、この家のご家族の都合が悪くなったのよ…それも聞いているよね。」

「はい、聞いてます。」


所長さんは、志桜里しおりに対しておだやかな声で言うた。


志桜里しおりさんは、きょうまでの間、一日も休まずにここで働いて来たよね…うちは志桜里しおりさんをなんとかしてあげたいのよ。」


志桜里しおりは、切迫つまった声で所長さんに言うた。


「所長、お願いです…他に家政婦さんが必要な豪邸おやしきを紹介してください!!お願いします!!」


志桜里しおりは、所長さんに対して『10月1日から働くことができる豪邸おやしきを紹介してください!!』と頼んだ。


所長さんは、ものすごく困った声で志桜里しおりに言うた。


志桜里しおりさんのお気持ちはよくわかるけど…家政婦さんを紹介してくださいと申し出る豪邸いえがあるかどうかが分からないのよ…」

「そんな…困ります!!」


所長さんは、ものすごく困った声で志桜里しおりに言うた。


志桜里しおりさん…ものすごくもうしわけない話だけど、紹介所うちでの家政婦登録とうろくも、9月30日の24時(10月1日深夜0時)をもって抹消きえる…」

抹消きえる…(志桜里、ものすごく泣きそうな声で言う)…それって、クビになるのですか!?」


所長さんは、ものすごく泣きそうな声で志桜里しおりに言うた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


志桜里しおりは、ひどくコーフンした声で所長さんに言うた。


「なんでごめんなさいと言うのよ!!…なんでうちがクビにならなきゃいけないのよ!!うちは、不平不満をひとことも言わずにここでモクモクと働いて来たのよ!!」


所長さんは、泣きそうな声で志桜里しおりに言うた。


志桜里しおりさんは、不平不満をひとことも言わずにここでモクモクとがんばっていたことはよく知ってるわよ…でもね…志桜里しおりさんの将来のことを考えたら…」

「だからうちはもういらないと言うのですね…分かりました。」


所長さんは、志桜里しおりに対してやさしい声で『つづきがあるのよ…』と言うた。


その時であった。


トメが一枚の紙切れを持って大広間にやって来た。


トメはかおるに一枚の紙切れを渡そうとしたので、かおるはトメに声をかけた。


義母おかあさま、それはなにかしら?」

志桜里しおりさんに電報でんぽうが届いたみたいだけど…」


トメから電報でんぽうを受け取ったかおるは、志桜里しおり電報でんぽうを渡しながら言うた。


志桜里しおりさんに電報でんぽうよ。」

「あっ、はい…」


電報でんぽうは、北海道の胆振東部いぶりとうぶの実家の家族からであった。


志桜里しおりは、受け取った電報でんぽうを読んだ。


九ガツ七ニチ二ムカエニイク…


エンダンヲイレタ…


シオリ、イママデイロイロトツラカッタヨネ…


オトーサントオカーサントオニイサンフウフタチゼンインデソチラニイク…


六ニチマデニジュンビヲシテオケ…


電報でんぽうを読み終えた志桜里しおりは、所長さんに北海道へ帰ることを伝えた。


「所長。」

「どうしたの?」

「うち…話のつづきを聞きたくありません…」

「どうして?」

「うち…北海道じっかへ帰ります。」


トメは、さびしげな声で『北海道へ帰るのね。』と志桜里しおりに言うた。


志桜里しおりは、さびしげな声で言うた。


「ええ…実家の両親は…うちに幸せになってほしいから…家政婦やめて専業主婦になれと言うてます。」


トメは『それだったらしゃーないわね…』と言うた。


かおるは、つらい声で志桜里しおりに言うた。


「実家の家族みなさまは9月7日にこちらに来ると書いていたね。」

「はい…すみませんけど、すぐに部屋の整理に入ります…6日までに完了させたいので…」

「(所長さん)分かったわ…それなら、部屋の整理を始めてね。」


このあと、志桜里しおりは部屋の整理に取りかかった。


志桜里しおりが使っている部屋にある品物は、着替え類など…コマモノが中心であった。


部屋の中にある家具類は、家のものである。


志桜里しおりは、着替え類などのコマモノをサックスバーの大型スーツケースに詰めて行った。


部屋の整理は、3日のうちに終了した。


それから6日までの間は、いつも通りに家政婦のお仕事に取り組む予定である。


(ゴーッ!!)


9月4日頃であった。


台風21号が西日本に接近した。


台風の中心は、室戸岬付近から淡路島〜阪神地域から近畿北部を通って若狭湾へ抜けた。


その後、佐渡ヶ島沖から北日本の日本海側を通って北上した。


台風の被害は、大阪府と兵庫県南部を中心に発生した。


台風が接近した時、豪邸いえがある地区に目立った被害はなかった。


しかし、7月の西日本豪雨の時からチクセキされた雨水が原因で地盤のゆるみがさらに加速していたのできわめて危険な状態にあった。


この時、志桜里しおりの気持ちがより不安定になった。

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