【新たな悲劇】

(ツクツクホーシ、ツクツクホーシ、ツクツクホーシ…)


次の日の午後2時過ぎであった。


志桜里しおりは、家の前で水まきをしていた。


この日もまた、猛暑日であった。


前日、健一郎があつこのかたきをつために出刃包丁はものを持って家出した。


あの様子だと、健一郎がボウキョに出る恐れがある…


家に戻ってきたあつこの心的外傷トラウマがものすごく大きいので、適切なケアが必要である。


要介護度4と判定されたトメは、周囲の助けがなければ生きていくことができない…


重病の家族を抱えているのに、昭久あきひさは家に不在であった。


家庭崩壊が現実味を帯びてきた…


この先、どうすればいいのか…


ところ変わって、豪邸いえの大広間にて…


大広間にかおると八重やえがいた…


八重やえの心は、極限まで追い詰められていた。


八重やえ隆三りゅうぞうが共稼ぎで多忙をきわめていたので、健一郎のメンドウを見ることができなかった…


だから、かおるの厚意こういに甘えて健一郎のメンドウを頼んだ。


健一郎が幸せになれるようにと思って隆三りゅうぞうとふたりで一生懸命に努力したのに…


健一郎は、幸せになれなかった…


製造工場こうじょうはクビになった…


菜水なみは、レイプ殺人事件の被害を受けて亡くなった…


自衛隊ジエータイから脱走した事件を犯した末に、事件を起こして懲戒免職クビになった…


再就職するためにシューカツ等をしたのに、不採用ばかりがつづいた。


そしてその末に、出刃包丁ほうちょうを持って家出した…


かおるからことの次第を聞いた八重やえは、ものすごくつらい声で言うた。


「健ちゃんが…出刃包丁ほうちょうを持って家出した…なんで…なんで…」

「健ちゃんは、あつこをかたきをつんだと言うて…そのまま行方不明になったのよ。」

「あつこちゃんのかたきをつためって…」

「よくわからない…」

「どうしよう…」


八重やえは、泣きそうな声でかおるに言うた。


「失敗した…大失敗した…」

八重やえさん…」

「こんなことになるのであれば、長男夫婦の家に移ればよかった…」


八重やえは今さらなにいよんぞ…


おそいわ…


八重やえは、かおるに泣きそうな声で言うた。


「話かわるけど…きょう…愛媛県警けんけいから亡くなった主人に対して、不名誉免職を言い渡されました。」

「不名誉免職…」

「ええ…」

「思いあたるフシはあるの?」


かおるの問いに対して、八重やえは『思いあたるフシはありません…』と泣きそうな声で言うた。


かおるは、心配げな声で八重やえに言うた。


「ほんとうに思いあたるフシはないの?」

「(むきな声で)ありません!!」


八重やえは、ひと間隔おいてからかおるに言うた。


「主人は、愛媛県民けんみんの生命と安全を守るため…健ちゃんが幸せになることをはげみにして、愛媛県警けんけいに尽くしたのです…それなのに、不名誉免職だなんて…」


八重やえは、かおるに対して泣きそうな声でいいわけを言うた。


八重やえは、自分自身のことをこう伝えた。


「うちも、健ちゃんが幸せになれるようことをはげみに県病院に尽くした…それなのに…健ちゃんは幸せになれなかった…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


かおるに対して見苦しいいいわけをならべまくった八重やえは、テーブルに顔をふせた状態でくすんくすんと泣きまくった。


かおるは、ものすごくつらい表情で八重やえを見つめた。


八重やえは、くすんくすんと泣きながらかおるに言うた。


「うちが全部いかんのよ!!うちがナマクラだから健ちゃんがすさんだのよ…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


かおるは、ものすごく困った表情で八重やえを見つめていた。


時は、夜8時55分頃であった。


ところ変わって、松山市三番町にある八坂公園にて…


昭久あきひさは、ハートマーケット(テレクラ)で知り合った33歳くらいの人妻おんなと一緒にベンチに座って身の上話をしていた。


昭久あきひさは、泣きそうな声で人妻おんなに愛を求めた。


「むなしいよぅ…むなしいよぅ…」


人妻おんなは、切ない声で昭久あきひさに言うた。


「よしよし…つらかったのね。」

「子どもたちにきらわれた…会社をなくした…家に帰るのもイヤや…」

「よしよし…」


昭久あきひさは、なおも人妻おんなに愛を求めつづけた。


このあと、昭久あきひさ人妻おんなは公園内にある身障者用トイレに入った。


ところ変わって、身障者用トイレの中にて…


昭久あきひさは、ズボンとブリーフを脱いだあと人妻おんなに抱きついた。


その後、ふたりはより激しいキスをかわした。


「ん、ん、ん、ん…」

「ん、ん、ん、ん…」


それから2分後に、昭久あきひさ人妻おんなが着ていた衣服と下着を全部脱がした。


そして、昭久あきひさ自身も全裸はだかになった。


それから240分後…


「ああ…(人妻)…」

「ああ…昭久あきひさ昭久あきひさ…」


昭久あきひさ人妻おんなは、より激しい声をあげながら求めあった。


ふたりが求め合う声は、トイレの外からも響いていた。


そして…


(バーン!!)


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


トイレの中にいるふたりは、より激しい叫び声をあげたあと倒れてしまった…


ふたりは、トイレの中で腹上死なくなった…


昭久あきひさは、脳の血管にできたコブがハレツしたことによるくも膜下出血で亡くなった。


人妻おんなは、心臓発作ほっさによる心不全症で亡くなった…


ふたりが亡くなった時、身元が確認できるものを所持していなかったので、ケーサツは身元不明の男女がトイレ内で腹上死なくなったと伝えた。


昭久あきひさが亡くなった知らせは神谷いえに伝わらなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る