【永久失格】

次の日の午後3時過ぎのことであった。


ところ変わって、今治市宅間しないたくまにある溶剤会社の昭久あきひさが使っている重役の個室にて…


デスクの上には、書面が大量に積まれていた。


社内会議で決まった議案…


営業の担当責任者が県外よそに出張をするので、費用を出してください…


総務部長の一人息子ドラむすこの挙式披露宴の費用を全額お願いします…


営業の○○くんの出産祝いの祝い金お願いします…


…………


昭久あきひさは、ものすごく怒った表情で自分がす欄に印鑑はんこをついていた。


どいつもこいつもグダグダグダグダグダグダグダグダ言いやがって…


自由と権利ばかり主張することとアフターファイブの時はいっちょ前のくせに…


勤務態度は極力悪い…


うちの従業員たちは、なまくらばかりだ!!


昭久あきひさは、ブツブツブツブツ言いながらデスクに積まれている大量の書面に印鑑はんこをついた。


さて、その頃であった。


またところ変わって、宮下町みやしたちょう豪邸いえの大広間にて…


大広間のテーブルに、かおると八重やえが座っていた。


ダイニングキッチンにいる志桜里しおりは、かおると八重やえがいただくお茶を作っていた。


八重やえは、かおるに対してもうしわけない声で言うた。


「先週の土曜日の夜、雄一郎が怒鳴り声をあげながら家の中で暴れたことについては、親御おやであるアタシが全部悪いのです…雄一郎ちょうなんに変わっておわびもうしあげます。」


かおるは、おだやかな声で八重やえに言うた。


「先週のことはもういいのよ…それよりも、雄一郎さんと嫁さんがなんで健ちゃんの相手おあいてを変えろと強要ようきゅうしたのかが気になるのよ…アレどう言うことなの?」


かおるの問いに対して、八重やえはものすごくつらい表情で答えた。


「実は…雄一郎ゆういちろうと嫁は、真備よめの実家からものすごくめんどいことを頼まれたのよ。」

「ものすごくめんどいことを頼まれたって?…頼んだ家は、どこの家のものかしら?」

「嫁のおにい農大だいがくのサークルにいた時の先輩からよ…備中高松びっちゅうたかまつ(岡山市北区)の野々江ののえの家のテンシンランマンをどーにかせえと頼まれたのよ。」

「その、野々江ののえの家は、農大だいがくの先輩のどなたにあたるの?」

「どなたって…先輩さんのコネよ…先輩さんが岡山県内の私立高校のスイセン入試の時に、ガッコーに水仙(の花)を持ってお願いに行ったのよ。」


スイセン入試の『スイセン』の漢字がちがいますよ〜


それと、スイセン入試の意味がぜんぜん違いますよ~


……………


話は変わって…


かおるは、つらい表情で八重やえに言うた。


「話かわるけど、問題のテンシンランマンはいくつよ?」


八重は、ものすごく言いにくい声でかおるに言うた。


「39歳と6ヶ月よ。」

「39歳と6ヶ月…テンシンランマンちゃんは、ほんとうに独身なの?」

「独身ですけど…」


かおるは、ものすごくあきれた声で八重やえに言うた。


テンシンランマンちゃんは危機感がまったくないみたいね…なんで29歳までに結婚しなかったのよ?」


八重やえは、おたついた声でかおるに言うた。


「だから、テンシンランマンちゃんはダラダラと婚期こんきを遅らせたわけじゃないのよ…今までの間に、野々江いえの親類の不幸ごとがたくさんあったのよ…」

「(あきれた声で)不幸ごとがたくさんあったと言うけど…」


八重やえは、ものすごくおたついた声でかおるに言うた。


「13年前にお見合いをして結婚する予定はあったのよ…だけど、挙式披露宴の3日前に祖父おじいちゃんが交通事故で亡くなったので延期になったのよ…その上に、お相手の男性の兄夫婦おにいのかぞくがヤミ金から逃れるために実家へ逃げ込んだのよ…それから13年の間にお見合いしたけど…相手方の家で不幸ごとが発生したから結婚取りやめになったのよ…おととしは、テンシンランマンちゃんの姉夫婦おねえのふうふがあおり運転事件の容疑者おとこに刃物で刺されて殺されたのよ…が明けた時には…」


かおるは、ものすごくあきれた声で八重やえに言うた。


「もういいわよ…話は分かったけど、雄一郎ゆういちろうさんとお嫁さんの強要ようきゅうはきっぱりと拒否してね!!」

「どうしてよ?」

「よくないわよ…不幸ごとがつづく家の娘は健ちゃんのお嫁さんにふさわしくないわよ…」

「だけど、野々江せんぽうは『娘をもらってくれ…』と…」


かおるは、なさけない声で言うている八重やえに対して『落ちついてよ!!』と言うてからこう言うた。


「あのね!!この際だから言わせてもらうけど、野々江せんぽうのいえテンシンランマンちゃんはやめた方がいいわよ!!」

「できたらそうしたいわよ…だけど。雄一郎ゆういちろうがにえきらない表情で…」


かおるは、ものすごく怒った声で八重やえに言うた。


「どんな理由があってもダメ!!…野々江せんぽうの家のテンシンランマンは自分が置かれている状況がぜんぜん分かっていないのよ!!40歳で初婚は世間さまからなんと言われるのかが分からないよ!!…子どもが生まれた時に育児と介護を両方することになるのよ!!」

「分かってるわよ…うちも40過ぎで健ちゃんを出産したから…育児と義父おとうさまの介護を強いられた経験があるのよ…」

「分かってるのであれば、健ちゃんのお嫁さんは菜水なみさんにしてよね!!」

「だけど…」

「ますますはぐいたらしいわね!!もういいわよ!!あなたたちが健ちゃんの結婚に消極的になっているから、うちらが全部だんどりを進めるから…」


かおるは、ものすごく怒った声で健一郎と菜水なみの結婚準備を一方的に進めると言うた。


かおるからどぎつい声で言われた八重やえは、イシュクした表情を浮かべていた。


ダイニングキッチンにいた志桜里しおりは、やる気をなくしたのでお茶をいれるのをやめたあとどこかへ行ったようだ。


時は、夕方6時過ぎのことであった。


またところ変わって、イオンモール今治新都市のさざなみコートのすぐ近くにあるスタバにて…


家出中のあつこは、中学時代のなかよしのコと一緒にドリップコーヒーをのみながらお話をしていた。


なかよしのコは、困った声であつこに言うた。


「あつこもいろいろとつらかったよね…それで、私立高校メートクには今も行ってないの?」


あつこは、ものすごくつらい声でなかよしのコに言うた。


「行ってないわよ…と言うよりも、私立高校メートク自体がイヤだから、退学やめたいのよ…」


なかよしのコは、あきれた声であつこに言うた。


「そうなることが分かっているのに、なんで制度を利用したのよ?」


あつこは、ものすごくつらい声でなかよしのコに言うた。


「あの時、他に方法がなかったのよ…(3年のときの)タンニンから『偏差値が極力悪いから、県立コーリツはあきらめろ…』と頭ごなしに言われたのよ…その上に、おかーさんが『健ちゃんもスイセン受けるから一緒に行く?』と言うたから…しかたなくスイセンを受けたのよ…今ごろになってスイセンで私立高校メートクに行くんじゃなかった…と気がついたのよ…サイアクだわ~」

「困ったわね…」


あつこは、ぐすんぐすんと泣きながらなかよしのコに言うた。


「ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…私立高校メートクへ行って大失敗した…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…おかーさんの言いなりになって神谷いまのいえに来て大失敗した…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…こんなことになるのであれば…実父ほんとうのおとーさんのもとにいるのだった…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…昭久しょぼいおとーさんのなんかだーーーーーーいきらーーーーーーい!!…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…」


この時であった。


スタバのすぐ近くにあるタオル美術館の前に昭久あきひさが通りかかった。


あつこからツウレツな言葉を言われた昭久あきひさは、ものすごく悲しい表情を浮かべながらあつこを見つめながらつぶやいた。


オレは父親失格だ…


オレは…


あつことてつやの父親失格だ…


オレなんか…


いない方がいいんだ…


その日の夜遅くだった。


(ウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウー…)


山方町の方で家事が発生した。


火元は、雄一郎ゆういちろうの家であった。


雄一郎ゆういちろうは、房江ふさえとひどい大ゲンカを起こした末に家に火をつけた。


房江ふさえは、この時雄一郎ゆういちろうを出刃包丁で刺して殺した。


房江ふさえとふたりの子どもたちは逃げ遅れたので亡くなった。


健一郎の結婚相手を変えてくれと言う話は、これで立ち消えとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る