第三章・質問、疑問、未回答

「ついたー!るらちゃん、デパートだよ!」


「うん……」


想像通り、かなり乗り物酔いをした。現実でもこんなに酔うことは無い。


着いた街はヨーロッパ諸国のような雰囲気だった。道は入り組んでいて迷いやすそう。でもお洒落で美麗な店の数々は、ウインドウショッピングをしているだけでも心が弾みそうだ。

その中でも一際大きな建物に入った私達。人は多く、少しでも目を離したらはぐれてしまいそうな程だ。


「茶葉は東館の2階のお店で買うのがおすすめ!さ、行こう!」


「うん!」


歩きながら、私はこんな質問をしてみた。


「あのさ、ツキはなんで私をここに連れてきたの?」


ツキは俯いて考え込む。それは何か言いかけようとして、留まったようにも見えた。


「答えたくなかったら答えなくてもいいから!ほら、好きな紅茶のフレーバーの話にする?」


ツキの機嫌を損ねないようにと即座に話題を変える。


しかし、次に彼女が発した言葉は予測してないものだった。


「るらちゃんを救いたいと思ったから」


「え?」


救う?私を?

意味を聞こうとしたが、直ぐにツキはいつもの笑顔に戻り「やっぱりなんでもない!」なんて言ってしまった。ツキは常にポジティブだ。ただ、それは意識的に作り上げているポジティブであるのだろう、時々影を覗かせる。


「そろそろ着くよ!」


なんだか私の胸に黒い何かが付いているような気がした。

私はそれを覆い隠すように紅茶のフレーバーは何が好きかとか、そんななんて事ない話に切り替える。

ツキは楽しそうに話してくれた。ただ、何処か私の黒いものを見透かし励ましているような気もした。


気の所為……かな。


※※※


お茶屋に着いた。現実のデパートとあまり変わりがない雰囲気だ。私の知っているお茶屋より少し品ぞろえが豊富に感じたが、特にファンタジーな要素は無かった。


「何の味にする?」


「るらちゃんの飲みたいものにして!店員さんにお願いしたら取ってもらえるはず!」


「そう言われても……種類がありすぎて選べないよ、おすすめはある?」


紅茶コーナーはこの店の中でも一際広く、説明も読めない言語で書かれている。そんな場所でひとつずつ香りのサンプルを嗅ぐというのも、流石にどうかと思う。

するとツキは既にお気に入りが決まっていたようで、迷わず私にその茶葉の缶を見せた。


「これにする!?おすすめだよー!」


「うん、じゃあそれで」


「わかった!お会計済ませてくるから待っててね!」


そう言うと、小走りで会計場所に向かっていった。

私はその間、近くにあったベンチで休むことにした。


――これは本当に夢なのかな――


ふとそんな疑問が頭に浮かんだ。


既視感があるんだ。ツキにも、この世界にも。でもこんな場所に行くのは初めてで、誰1人知り合いは居なかった。


そして、不思議なことに現実よりもわくわくする。

何も変わらない単調な毎日から抜け出すことができたような、そんな気がした。夢の中に居た方が私が活き活きしてるようにも見えた。


――でも、現実に帰れなくなったら?――


それはそれで怖い。でも、現実で起こることはそれと同等に恐ろしい。


これ以上考えるのはやめておこう……。そろそろツキが帰ってきそうだし、自我が崩壊しそうになる。


「ただいまー!さ、ひみつきちに帰ろ!」


「……うん、紅茶飲むの楽しみ」


「ねえ、何かあった?」


ツキは妙に勘が鋭い。


「ちょっと考え事、大したことないから!」


私は誤魔化すのが下手だった。


「そっか、じゃあ帰ろっか!」


「うん」


騒がしいデパートではどっちにしても答えは貰えないはずだ。

さっきの疑問と回答は紅茶と共に味わおうと思った。

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