第二章・不思議な道のり

 外の様子は現実とそこまで変化は無かった。お菓子のなる木があるわけでも、八本足の未確認生物がいるわけでもなく、ただ周りにある看板などが全て読めない文字で書かれているだけだった。さっきまで居た建物も、至って普通の家だった。

 私は漫画やアニメで見た光景を想像していたので、残念ではあった。それとは対照的に、奇妙な夢に少しだけ安心感を抱き始めていることを自覚した。

 ツキはと言うと、るんるんとした様子で室外機横の物置を漁っていた。


「何を探してるの?」


 尋ねてみる。この時私は魔法道具とか、その類の『異世界もの』によくある物を取り出すのでは、と少し期待をしていた。

 しかし5分程待ったところで取り出してきたのは、何の変哲もない物干し竿だった。


「これなら長さ足りるかも!」


 と意味のわからない事をツキはぶつぶつと呟いている。そして、物干し竿にまたがった。

 もしかして、空を飛ぶ!?

 さっきより数倍以上期待し、私の心は好奇心で満たされる。


「もしかして、これで空を飛んじゃったりする!?」


 つい大きな声で言ってしまう。これは私らしくない事だった。普段ならどれだけ感情が高ぶっても、現実であれば抑えているし、抑えられる。

 もしかすると、夢の中の世界に入った影響かもしれない。

 そんなことを考えていると、目の前に特大の笑顔が現れた。


「もちろん!飛んだ方が早いからね!」


 彼女の笑顔につられて、私もにっと微笑む。

 本当に空を飛べるんだ…………!


「私の後ろでまたがって!飛ばすからね、しっかり捕まってて」


「うん!」


 私は竿にまたがり、準備OKの合図をする。


 すると、竿は軽く宙に浮き、移動し始めた。最初はそこまで速さは出ていなかったが、その後急速にスピードが上がった。


「飛ばすよー!」


 その掛け声で、一気に竿が動き始めた。


 ※※※


「着いたよ!どう?あたしのひみつきち!」


「う、うん……ちょっと休ませて……」


 ツキの飛び方は正直、荒かった。例えるなら、普段酔わない人も車酔いしてしまう運転のような。

 建物の壁すれすれを飛んだり、人だかりの間をもの凄い速さで通り抜けたり……ぶつかる事は無かったものの、一歩間違えれば事故を起こしそうな場面が多々あった。

 しかし、色んな場所を通り抜けたお陰で、この夢の中の場所を少し巡ることができた気がする。少し休んだ後にその場所について聞こうと思った。

 ひみつきちはと言うと、ツリーハウスのようだった。普段テレビ番組などでしか見ないような、森の中に佇んでいた。年季のはいった木材で組み立てられているようだった。階段は無く、はしごでフロアを繋いでいた。飾られた草花やオブジェは、センスを感じさせるものだった。


「すごい……!おしゃれなツリーハウスだ」


「でしょ!2階の部屋に来て、お茶入れるから!」


 言われるままに二階の部屋にあがる。広めの部屋には木製のティーテーブルと椅子が二脚が真ん中に置かれている。キッチン、寝室など、生活に欲しいスペースはこの部屋に全て組み込まれていた。


「さ、座って!」


 席につくと、ツキは「準備してくる!」と言いキッチンの方へ向かった。やかんに水を入れ、火にかける。魔法は一切使っていなかった。そもそもこの夢に魔法と言うものがないのかもしれない。


「あ」


 ツキが呟く。


「どうしたの?」


「しまった、茶葉切らしてた」


 どうやら水だけ沸かしていたようだ。


「お願いなんだけど……一緒に買い出し行ってほしい!いい?」


 大きく頼み込むジェスチャーをしながらツキが言う。買い出しとなると、おそらく街に行くだろう。むしろ歓迎だ、私も街を見てみたい。


「もちろん、それと街案内もして欲しい」


「じゃあ一緒に行こう!飛ばすよ!」


「え」


「どうしたの?」


「なんでもない……」


 また荒い運転をするのか……。これは絶対酔う。

 覚悟して、私はツキの竿にまたがった。

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