第15話 改心しないタイプのトニー・スターク
「皆様、この度はお集まりいただきありがとうございます。今回はファイン武器産業の新製品のプレゼンテーションをさせていただきます」
俺はジョブズのようにゆっくりあるきながら、語り始める。
まずは語りかけるように、ゆっくりと。
「公社のみなさん、みなさんは私の会社の製品の運用として自爆突撃を実行されています。魔術は使用する人がいなければ発動させられませんし、非常に有効な手です。ですが」
俺の後ろで自爆突撃を繰り返す兵隊たちがいた。
彼らは無の顔をしながら敵陣に特攻をしていた。全員、腰みののような最低限の装備しかつけていない。どうせ死ぬので着替えるのがめんどくさくなったらしい。人としてどうなのだろうか?
「ですが、思ったことがあるのでは? このシステムでは、敵陣後方を叩くことができない。ニュートーキョーの魔術兵団は、遠距離攻撃もできるためこれではこちらが不利になってしまう場面もあります」
「確かにそうだ」
「しかし、自爆戦法は結果を残している!」
「魔術師の量産はいまだ難しい。自爆兵のほうがコストパフォーマンスがいいのでは?」
公社の面々が口々に意見を言う。もちろんサクラだ。
「ええ、魔術師は専門職。育成には時間がかかる。ですが、遠距離攻撃手段は欲しい。コストパフォマンス、自爆、遠距離手段。相反するすべてを補うのは難しいでしょう」
俺は一呼吸を入れて、目をかっと開いた。
「そこでわが社の新製品です。こちらを御覧ください」
それは普通の投石機に見えた。てこを使う攻城兵器とかにあるやつである。
特徴的なのは投げるものだ。そこには石ではなく、多数の人間が団子状にまとめられてくくりつけられていた。
「やれ」
俺が指示を出すと投石機が一気に動き出す。
ぐんぐんと加速したそれは、団子状の人を戦線に放り出す。
ほとんどの人がそのまま地面に衝突したが、複数人が寸前で自爆術式を実行し、敵陣後方で大きな爆発を起こした。
「これは流石にヤバイので……」
「素晴らしいっ」
「買おうじゃないか、いくらだね!」
何人かが少し引いたがここが勝負どころだ。
サクラを使って強引に流れを引き寄せる。
「慌てないでください。私はニューサイタマの人間です。もちろんこのカタパルトはサービスさせていただきます。しかし……」
俺は鷹のように腕を広げた。
「やはり誠意を見せていただけると今後も長くお付き合いいただけるかなと存じます」
公社の高級将校たちがうちわで話し合う。
奴らは表では人権とか言ってるが、そんなの取り繕っているだけなのは見え見えだ。自爆戦法なんてやっているのがいい例だ。
そして案の定、結論は採用に傾きつつあった。
「そ、それで誠意というのは具体的にどうすればいい?」
俺は笑顔が止まらなかった。
俺は成功した。
戦争は起こすものじゃない、儲けるものだ。
俺はクラゲの肩を抱き寄せて、ガハハと笑った。
「えぇ、クラゲ? お前は金があるとすぐ媚びてくるな?」
「そんな言い方やめてくださいよー。私はもとからファインさんのこと信じてましたから、ね」
そう、クラゲは共同経営者として招いた。
奴の経営手腕は悪辣だが信頼できる。正しく俺のパートナーとしてふさわしい。
「なあ、今夜辺りどうだい? 予定が詰まってなきゃ良いんだが?」
クラゲが純白の髪の毛を耳にかけて、頬を染める。
クククッ、こんな姿、全国のこいつの債務者に見せてやりてぇな。
「オーナーには秘密ですよ」
クラゲが耳元でささやく。
その日、二人の姿は夜のホテル街へと消えていった。
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