第13話 ファイン賞
公社のトップ、名前はリョウというらしい。
世間からは好青年と思われているが、そんな奴が不法侵入してきたのが謎だ。
戦争。
この場合、人間同士のということだろう。
どこ対どこの戦争なのかは想像がつく。
ニューサイタマとニュートーキョー、いや正確には埼玉新営公社と東京中央政府との戦争。
いやだね、物騒だ。
元日本人としてのゆるさは何処にいったのだろうか。
そしてそれを公社のトップが俺に忠告しに来る。
……まあいっか。めんどくさ、じゃなくて俺みたいなやつにそういう政治の話は関係ないからな。興味あるやつだけでそういうイベントはやってくれ。
そんなことより朝飯の用意だ。
俺は溶き卵と牛乳、塩コショウ、砂糖をボールに入れてよく混ぜる。
今日はオムレツだ。洋風にしたいので牛乳を入れる。
卵料理はタイミングが重要だ。
よし、完璧だ。
「オーナー、そろそろできるぞ。起きてくれ」
「んみゅ」
オーナーが幽霊のように起き上がる。
オーナーは普段しっかりしているのに朝が弱い。普段のIQが半分になる。
「おはよう、ファイン。今日はいい天気だな」
「豪雨をいい天気と呼ぶならそうですね。ほら、早く椅子に座って」
料理を並べながら、オーナーの寝癖をさり気なく直しておく。
机に頭をあずけて完璧に二度寝しているオーナーである。
一緒に暮らし始めてわかったことは、この人は自分では否定するが生態が完璧に猫そのものである。
仕事がなければずっと寝てるし、めんどくさがりだし、人付き合いが悪い。
そんな人がなぜ接客業をしているのか、しかも自分の性格を表に出さないようにしているのかは謎だが、キュートだから良しとしよう。
ラジオの電源をつける。
どうやらニュースでは戦争についてやっていないらしい。
この新世界にテレビなどは存在しないので、基本的に娯楽はラジオだ。
ちょっと前まではラジオすらなかったので新聞を朗読していた。だが、贄人の性質が明かされ、研究されたことで少しずつ旧時代の技術を再現できるようになってきたらしい。
だが、話によるとこれは電波を用いたラジオではないようだ。というか電波を観測しようとしたら予想と違った結果が出て物理学者が大騒ぎしていた。
何でも電磁波が光速じゃなかったのだとか。そんなに大騒ぎすることなのかは知らないけどな。ま、これも俺に関係ないことだ。
いや、ちょっと待てよ。
戦争、魔術、武器、特需……。
「戦争特需っ」
そうだ、なぜすぐ思いつかなかったッ。
戦争は純粋経済的には金を溝に捨てているようなものだ。将来ある若者と資源をゴミ箱に捨てるわけだからな。
だがそれはマクロな話。
ミクロでは違う。そう、戦争になることがわかっているのなら、需要ができることを知っているのなら、武器を用意してやれば良い。
ファイン軍事会社の設立である。
特需に乗っかれれば、借金返済どころか、大金持ちに。いや、それどころではない。
かつて、爆薬を作った武器商人は後世には科学技術を称える賞を作った。
ファイン賞……いい響きだ。
俺は舌なめずりをした。
「俺が新世界のノーベルになる」
「ファインー、オムレツが、溺れてる」
オーナーは未だに眠ったままだった。
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