第12話 さっさとお引っ越し
「おはようございまーす。引っ越しの手伝いに来ましたよー」
今日は俺の引っ越し日だ。
裏バイト城を作るためにクラゲに金を借りたせいで、利子が増え、とうとうアパートの家賃を払えなくなったので、オーナーの店の二階に住ませてもらうことになったのである。
ちなみにクラゲは笑顔で貸してくれた。人が死なない現代において、逃げることはできない。真綿で首を絞められるような感覚があった。
まあ、それはともかくだ。
オーナーと、二人暮らしである。これは熱い。
昨日は化け物を用い、殺しかけ逆に殺されたわけだが、俺はオーナーのことを愛している。
それは、恋と呼ぶには深く、愛と呼ぶにはあっさりしている。
信頼とも呼ぶべき情だと言える。
俺は手伝いに来てくれたヒメに麦茶を出すと、家具の運搬を手伝ってもらうことにした。
どうやら彼女の種族はちっこいくせに力は強いらしく、重い家具もひょいと持ち上げてしまう。
「ベッドは窓際で頼む……いや、そうじゃなくて窓に対して垂直に、そうそう。あ、でも本棚と干渉するな。やっぱ、平行に、お前もうちょっと考えろよ、平行にするんだからそこにおいたらドアにぶつかんだろ、そうそう、そうやって、丁寧に下げろよ、家具を丁寧に扱えるやつは人付き合いも丁寧だからな」
「う、うるさいな、この人。そんなに言うなら手伝いなよ」
「効率考えろ、効率」
ヒメがげんなりしながら、家具を配置していく。
力持ちがいるとこんなにもすいすい終わるもんなんだな。結局、家具の配置は昼前に決まり、お昼をどうするのかという話になった。
まあ、いつもなら昼飯なんて適当に作るんだが、今日は後輩であるヒメが来ている。ここは俺の料理力を見せつけて屈服させる必要がある。
俺は冷蔵庫を開いた。
くそ、何もねえ。
しなしなのピーマンと鰹節、あと大量にストックされている冷凍食品。
オーナーの食生活が心配になる。
まあ冷凍チャーハンでいいか。
俺はそそくさと調理を開始する。
適当にスープも作っておけば形になるか。
「おーいヒメ。メシできたぞ~」
「はーい」
「おい、これレトルトじゃん。俺、チャーハンをレトルトで買うのイマイチ理解できないんだよねー」
気がつくと居間のテーブルに知らねえゴミが紛れ込んでいた。
「帰れ、どこから入った」
「そんなこというなよ、ファイン。俺とお前の仲だろ」
いや、知らねえよ。
ていうか誰か褒めろよ。急に知らねえやつが家に来て、冷静に対応できるの一種の特殊技能だろ。
「え、あれ、本当に覚えてない?」
「知らねえよ。ていうか、ホント誰だよ?」
「いや、えー、まじで? あのときめっちゃお互い信用し合うーみたいな感動的瞬間だったじゃん」
いや、まじで覚えてねえんだけど。こいつ誰だ。
「あ、ファインさんおまたせ。あれ、お客さん来てたんだって……わぁ!」
ん、ヒメは知ってんのか?
ますますわからん。
「ファインさん、この人公社のトップじゃん! 知り合いなの?」
「それがね、この人、俺のこと忘れたとか言ってるんだよ。ひどくない?」
公社のトップ?
なんで俺がそんな奴と知り合いなんだ?
……。
まあいいか。なんか記憶喪失系主人公っぽくてかっこいいし。
「それで、要件は何だよ」
「ああ、えっとそうだそうだ。ファイン、戦争が起こるぞ」
「は?」
「じゃあ俺、帰るからっ!」
公社のトップと思わしき男は俺の部屋の窓からひょいと出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます