第11話 決戦、裏バイトリーダーを倒せ!

「裏バイトリーダー、お前はもうここまでだ」


 ヒメが力強く裏バイトリーダーの姿を睨む。

 その姿は全身黒いマントで覆われていた。


 ここまでの道のりは長かった。

 裏バイトリーダーの配下との料理対決に始まり、急に登場した裏バイト四天王との激戦、そして協力的だった少女が実は裏バイトリーダーの娘であったことが発覚したりもした。

 だが、いくつもの出会いと別れを繰り返し、ついに俺たちは裏バイトリーダーに相対するに至った。


 もちろんこれも計画どおりだが。


「伝説のバイトリーダーの弟子たちよ。よくぞここまでたどり着いた。だが、もうすでに雌雄は決した。私の、いや」


 裏バイトリーダーが黒いマントを剥がす。

 そこにいたのは、そう、俺だった。


「俺の勝ちだぜ、ヒメぇええ!!」


「そんな、ファイン先輩っ!」


 そう、ここまでの茶番はすべて俺の作ったものだ。全てはこいつをこの裏バイト城で待ち構えるためッ。

 この城は、こいつを倒すために作ったものだ。まあ、帝国時代の城を再利用しただけだが。


 だが、何十にも張った罠に、裏に控えているのは化け物たちの群れは本物である。

 ここでこの新人バイトを確実にぶち倒すため、俺は稠密な計画を立て、そしてついにそれは結実した。

 普通の場所ならば、俺はこの女に負ける。俺は魔術なんて使えないからな。

 だが、この場所ならっ。


「いいか、ヒメ。たしかに修業の日々は楽しかった。だが、俺がお前への恨みを忘れるわけがねえだろう。お前を倒せば、俺の裏バイト斡旋業もうまく回る。そうすりゃ借金も返せて、晴れて自由の身ってわけだ! お前は俺の覇道の一歩目なんだよ!」


 ヒメは強い意思を瞳に込めてこちらに向けた。


「させないっ。先輩の暴走を止めてみせるっ」


「いいだろう、受けて立つ。最終決戦だ。本気を出させた上で、お前を倒してやる」


 俺は罠を起動しようと、タッチパネルへ目を向けた。

 うん? 侵入者が二人?


 一人はヒメだとして、もう一人はだれだ?


 その瞬間、爆発とともに、城の一部が崩落する音が聞こえた。

 な、何者だ!?

 クッ、仕方ねえ。トラップはヒメのために残しておきたかったが、ここで負けたらしょうがないからな。

 こうなったら、全力起動だ。城中に張り巡らされた罠が起動する。


 だが、止められない。

 アラーム音がけたたましく鳴り響く。


 くそ、とりもち廊下もクリアされただとっ?


「よお、ファイン」


 そこにいたのは、オーナーだった。


「お前、仕事サボって何してんだ?」


「お、オーナー。これには理由が……」


 俺は言い訳を言うふりをして、化け物軍団を放出するスイッチを押した。


「悪いな、オーナー。俺の覇道の礎になってくれ。ハハハハッ!!」


 化け物の群れがオーナーに向かって殺到する。

 さしものオーナーもただの人間。複数体の化け物共にはかなわない。

 オーナーが終わればヒメだ。魔術がなんだ、これで死なねえやつはいない。


「勝ったな」


 俺は勝利を確信した。

 手元のシャンパンを開ける。


「なあ、おい」


 それは、幻聴にしてはあまりにはっきり聞こえた。


「そのシャンパンうまそうだな。よこせよ」


 馬鹿なっ。化け物の方に目を向けると、すべての化け物が宝石に変わっていた。

 

 俺は命乞いをすることに決めた。


「オ、オーナー。仕事サボったの悪かったよ。でも、それヒメも同じだし、そもそもオーナーのためを思ってやったんだ。少しは情状酌量の余地があると思うんだ。ていうか、やっぱり人を殺すのって、普通にいけないことだからさ。やっぱり悪いことしたからって、殺すのはどうかなと思うわけですよ。ていうか、そうだオーナーって裏バイトとか興味ない? オーナーの体なら高収入目指せちゃうよ。だから」


 オーナーはにこりと笑った。


「遺言はそれでいいか?」


 俺はオーナーに処刑された。


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