第9話 伝説の、バイトリーダー
なんか前回ちょっとシリアスっぽくなったが、それ以上の情報が得られることもなく俺はコキュートスから出た。
ニエビトっていうのは贄人と書くらしい。
文字通り生贄のための人。
記事によると、魔術は贄人の身体の一部を特定の位置に組み替えることで発動させる。
紹介されていたのは髪の毛で輪を作って相手を爆発させるのと、爪を粉末にして相手を爆発させるのと、その両方をやって相手を大爆発させる奴だ。
いや、爆発させるの多いな。細かいことは苦手なのかもしれない。
ていうか発動条件が完璧に黒魔術なのは何なの?
わざわざ身体の一部と書いてある時点で、髪の毛と爪以外の組み合わせもあることも明白だ。
普通にドン引きである。
まあ、それはどうでもいいが、俺らの新人バイトがいきなり世間の注目の的である。
黒魔術的な運用で少し分かりづらいが、これはあいつの種族がいきなりエリートになったことを意味する。なにせ、魔術を使える唯一の種族だからな。
これではより俺の店での立場が低くなるというものだ。
くそ、なにか無いのか。俺があいつに勝てる方法はっ。
考え事をしながら歩いているといつの間にか俺は暗い路地にいた。
知らない場所だ。
こういう場所は治安が悪い。なぜか居心地の良さを感じるが、早く抜け出さなければな。
そう思って路地を歩いていると、躓いて転びそうになってしまった。
「欲しいか?」
声が聞こえる。
「誰だ!」
姿は見えない。だが、たしかに何かがそこにいた。
これは、魔術なのか?
魔術でこういう事ができるのか知らないが、得体の知れない気配を強く感じた。
「力が欲しいか?」
それは姿を現した。
光っていた。
全身がくまなく、蛍光灯のようにやかましく。
そして、バイトリーダーというたすきをこれでもかと自慢気につけている。
なんでそんな姿で先程まで隠れられていたのか?
「お、お前は誰だ?」
「吾は、伝説のバイトリーダー」
俺はその名前を聞いたことがあった。
伝説のバイトリーダー、そう自称する怪異の話を前に聞いたことがある。
曰く、その怪異は人知れずバイトでの悩みを持つ者の前に現れ、教えを授けては回っているという。
神なのでは、そんな声もある謎の存在だ。
まさか、俺の前に現れるとは。
「バイトリーダー、お前が噂通りの存在なら、バイト秘伝を教えてくれると聞くが」
「伝説の、バイトリーダだ」
伝説のバイトリーダーは、自分のことを頑なに伝説のバイトリーダと呼ばせる。
正直、発見報告は週3くらいあるので、個人的に伝説感は薄いのだが。
「そして伝説のバイトリーダーとして、お前が欲するならば授けよう。厳しい試練となるが」
伝説のバイトリーダーは手をこちらに差し出した。
俺は固唾を飲む。
こいつの教えを受けたものは軒並みバイトリーダーの地位を得る。
胡散臭い話だが、神とも言われる存在ならば、あのヒメを倒せるバイト力を俺に授けてくれるかもしれない。
俺は手を握った。なんかぬめぬめしている。
「気持ち悪っ、じゃなくて、ああ、欲しい。修行をつけてくれっ」
伝説のバイトリーダーは大きくうなずくと、俺の後ろを見る。
「そちらも同じ答えでいいかな?」
「え、うん。なんか楽しそうだし」
急に後ろから声がしたので俺は振り返った。
そこにいたのは薄く笑う憎き新人バイトの姿だった。
「ヒメ! お前。この期に及んでまだ邪魔するか!?」
「ファイン先輩。私はあの店が好きになりました。先輩だからといって負けるわけにはいかないんですよ。オーナーは私のです」
伝説のバイトリーダーは微笑んだ。
「ふむ、ライバルというやつか。素晴らしい。ふたりとも、付いて来るが良い。我が仙境に案内しよう」
こうして俺とヒメは伝説のバイトリーダーへ弟子入りした。
過酷な日々が今、始まるっ。
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