第8話 ニエビト
「18番出ろ。面会だ」
世界が変わっても刑務所は存続した。
もちろん法律どころか国家すら崩壊した世界だ。犯罪とは、それぞれの団体が出すルールに抵触することである。
だが、それはかつての基本的人権が彼ら犯罪者に保証されているわけではないということも意味していた。
そんな中でもとりわけの監獄、社会的更生は不可能とされたものだけが入れられる場所があった。人呼んでコキュートス。
地獄の最下層を意味する異名のその場所には、連続殺人犯やテロリストなどの極悪人の中で、特に異常者と呼ばれる存在だけが集められた。
そんな悪党の中でも18番室は噂の的だった。
独房の外には一切出ない。音も聞こえない。
だが、看守が持ってくるパンは独房の暗闇に消えた後、確かに減って戻ってくる。
魔物が住んでいるのでは、そんな声も聞こえるほどだった。
そんな噂の的が今、面会人に会おうと独房から出ようとしている。
「誰が来た?」
か細く、痰が絡んだ声で独房の主は訪ねた。
「どうでもよかろう! 早く出てこい」
看守が独房の扉を開け、暗闇の中に手を伸ばす。
いや、正確には手を伸ばした、という言うべきだろう。
なぜなら、彼の腕はすでに存在しなかったからである。
「うわぁああぁぁっ、き、緊急事態。緊急事態発生」
「誰だ、と聞いている」
か細い声は静かに続いた。看守が恐れながら来訪者の名前を言うと、男は暗闇から出て、ガサガサとした肌の頬をにぃっと上げた。
「そうか、それは」
楽しみだ。そう言うと、男は面会室へ歩き始めた。
「ファイン!! 逢いたかったぜー。元気してたかぁ? お前は気がつくとすぐ死んでるからずっと心配だったぞ」
今日はコキュートスに旧友へ会いに来た。
名前はヘブン。頭の中身が天国にイッちゃっているのでそう呼ばれている。
こいつは思考回路がイカれていて、どうやら本人的には最短経路を目指しているつもりらしいのだが、常人にはよくわからない方法を取る。
今は、付き合いたい娘をナンパするために牢獄に自ら捕まっている、らしい。俺にはよくわからん。
一見、馬鹿なのだが、こいつの実績的に、あながち笑うこともできない。
化け物から得られる宝石に血を垂らすと蘇れる。
その事実を、見つけたのはこいつだ。
この発見は、あらゆる人類の行為を大胆にした。
命のバックアップができるなら非人道な実験だっていくらでもできるからな。その点では微分積分を開発したのに等しいレベルといっても過言ではない。
さて、そんなヘブンにはニエビトについて聞きに来たのだ。
こいつは思考回路がイカれている以外は普通に天才なので、結構物知りだったりする。まあ、クラゲとかも結構頭いいんだが、関わりたくないからな。普通に、知識の対価とか求めてきそうなので怖い。
敵を知ればなんとやら。店を救うにはヒメについてもっと知るべきだ。
そんなわけで聞いてみるとヘブンはしかめっ面で答えた。
「ニエビトぉ? お前、そんなのに興味あんのか?」
俺は首をかしげる。
「なんか知ってんのか?」
「知ってるも何も……おい、そこの看守さんよ、それ今朝の朝刊だろ。ちょっと貸してくれよ」
ヘブンが新聞を受け取ると、大見出しを開いて俺に見せつける。
そこには、こう書かれていた。
【暴かれた真実! 魔術の正体は
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