第7話 期待の新人

「新しいバイトを紹介するぞ。自己紹介しろ」


「ヒメっていいまーす。よろしくでーす。あ、種族はヒューマンじゃなくてニエビトねー」


 猫草亭に新しいバイトが入ってきた。

 俺は興味なさげにパチパチと拍手をする。


 帝国事件のあと、俺はクラゲに首根っこ掴まれて定職につかされた。クラゲの知り合いの職場だというので、どんなブラック労働をさせられるのかと思えば、普通にオーナーの店だ。


 俺に優しすぎない? とクラゲに言ったら、笑顔で俺をコンクリに埋めながら、


「ファインくんはタコ部屋送りにしてもすぐにげるからねー、オーちゃんのところで働くのが良いと思ったのですよ」


 と言われた。

 借金を返し終わったら二度とあいつに関わらないようにしよっと。


 さて、ヒメとかいうこのガキ。まったく、敬語がなっとらんな。

 店長であるオーナーに対して、間延びした態度を見せやがって。

 これは教育が必要なようだ、先輩は辛いぜ。


「なあヒメさんよ。ニエビトってなんだ? ちっこい以外普通に見えるが」


「あ、ファインさんだ! 私、この前の事件の感想聞きたい!」


「え、いや、まあ魔術っていうのは結構、雑だな。なんか爆発させられたのは覚えてるけど……じゃなくてニエビトについて」


「ていうか、ファインってあの博打師ファインだよね。私らの中で結構有名だよ。ラスボス疑惑は本当なの?」


「それさぁ、誰が流している噂なのかいい加減知りたいんだよね。そいつは早めに消しとかないと……そうじゃなくてお前の種族」


「そういえば、オーナーさんの猫耳かわいいよね」


 話聞けよっ。

 なんだよ、こいつ。ぜんぜん、こっちの話聞かないんだけど。

 マイペースってレベルじゃねえぞ、これ。


 こんなコミュニケーションできねぇやつが接客業できんのか?

 俺は不安感とともに開店を迎えた。




「お次、お二人様入りまーす!」


「「いらっしゃいませ~」」


 俺は笑顔で客を迎えた。


 こ、こいつ、仕事ができるぞ。

 今日は金曜日。昼ならともかく夜のこの時間帯は居酒屋にとっていわばゴールデンタイム。特に猫草亭は結構人気店なので、キャパ200%位の人数が来店する。


 正直、俺は今日は新人にはバックでドリンクでも作ってもらって、明日から仕事を教えようと思っていた。

 経験者でもないらしいので、流石に初心者にゴールデンタイムは厳しいかなと思ったのだ。


「あ、ファインさん。10番卓、4名様お会計でーす。おかえりの際に2番のお弁当を一つ注文されているので忘れずにお願いします~」


「あ、はい」


 だが、開店した途端、こいつの動きは早かった。

 適切なオーダー管理。

 酔っ払った客への対応。

 そして先輩の俺より早いレジ操作。


 まるで知った店かのように働くわ、働くわ。

 ついにはオーナーも笑顔で「これなら明日から給料アップしてもいいかな」とか言う始末である。俺、まだ給料上がってないのに!


 ごくん、俺は客のビールをかっぱらって飲み干した。


「お、おま、何しとんじゃ」


「ぁあん、なんか文句あんのか? 客だからといって調子のるんじゃねぞ?」


「ひっ」


 ジェラシーだ。

 どうにかしなければいけない。

 このままでは、あの軽薄娘にオーナーの心どころか、店全体が乗っ取られてしまうっ。


「お次、4名様、うち二人お子様ご来店でーす」


「「いらっしゃいませ~」」


 今、店の安寧を守れるのは、この俺だけだ。

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