第4話 戦場

「総員、突撃ぃいい!!」


「「オオオオオオオオッッッ」」


 俺はいつのまにか最前線送りにされていた。

 いや、経緯は覚えている。紹介状を持って、公社が運営する受付に行ったら、そのまま荷車に突っ込まれ、ガタゴトと半日かけて運ばれたと思ったら、ここにいた。


 武器のたぐいは完全ランダムのようで、最前列なのに弓を持った人もいれば後方なのに剣を渡されてわなわなしている人もいる。

 俺は大根を渡された。


「よぉ、ファイン。懲罰部隊で会うとはナ」

「元気そうで何よりだな、ファイン」

「ファイン、金返せよ」


 どうやらここは懲罰部隊らしい。

 懲罰部隊というのは、雑に言えば犯罪者を懲役代わりに軍隊に放り込んだものだ。なので、どいつも治安が悪そうな悪人面をしている。モヒカン8割、棘付き肩パット10割といえばわかりやすいだろうか。


 俺はピュアでひ弱な一般人なので、こういう奴らとは縁遠いはずなのだが、何故か彼らの多くが俺のことを知っているようだ。

 

「近寄るんじゃねぇ、クズども。俺は冤罪だ。おめぇらとは違うんだよ」


 しっしっ、とまとわりつく野郎どもを押しのけ戦場の様子を伺う。


 遠くの方で男たちの野太い悲鳴。どうやら第一陣がくたばったらしい。


「第二陣、突撃!!」


 ラッパのけたたましい音とともに、唸り声が聞こえた。

 指揮官は第一陣の無惨な散り様を見てなお、突撃を続けるようだ。


 一見、愚策に思えるのだが、これには理由がある。

 まず、大事変後、人間は死ななくなった。

 より正確に言うと、バックアップができるようになった。


 化け物共は死ぬとアボカドの種くらいの大きさの宝石を残して霧散する。

 それに血を垂らすと、人間は死んでもその宝石から蘇る。

 具体的には、宝石からにゅっと身体が気持ち悪い感じで生えてくる。


 死ぬ前のその人と、宝石から生えてきたその人が本当に同一人物なのかは誰も知らない。が、とにかくそいつは同じ身体と記憶を持っているので、蘇りと理解されている。


 一度蘇ると宝石は消費されてしまうが、それはまた化け物を狩ればいい。


 というわけで、人類は化け物を狩ることにした。


 一匹の化け物は人間よりもでかいので、強敵だ。

安全に倒すのには成人男性5人は必要だろう。


 しかし、死んだ後に残す宝石は一匹につき平均2個。これでは採算が取れない。

 ちょっとしたミスでも2人以上は簡単に死ぬからだ。

  

 ここで先人は考えた。


『爆弾くくりつけて自爆させれば、一人でも一匹以上狩れるし、損失も少ないんじゃね?』


 馬鹿である。

 だが、この、倫理が終わってるとしか言いようが無い作戦はこれまでにない戦功をもたらした。

 それからというもの、適当に集めた兵隊に命のバックアップを作らせて爆弾をくくりつけ、適当に突撃させるというのが基本戦法となっている。


 ちなみに手元の武器は化け物を殺す用ではない。

 気が狂って自陣内で爆発しようとした馬鹿をぶっ殺して後方送りにするためである。


 さて、どうしたものか。

 俺が戦場送りになったのは、クラゲに昨日の事がバレて、怒りを買ったっていう可能性も捨てきれないが、おそらく違う。

 なぜなら、それはオーナーがグルになっていないとありえない選択肢だからだ。

 オーナーがそんなことをするはずがない。


 だとすれば、可能性は一つ。

 この戦場に金儲けの手がかりがあるということだ。

 

「オーナー、期待しててくれ。きっと探し出してみせる。希望の光ってやつを…っ」

 

 俺は祈るように空を見た。

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