朝。2

部屋から出ると、白い通路が左右に伸びている。

通路の右の方向に伸びている床面には細く黄色い線の様なライトが点いている。

左方向の通路床には何の線も点いておらず、白い廊下はちょっと先が突然白い壁になっていた。

右側の通路にはずっとラインが通路の先に続いており、目的地をガイドしている。

今日のこの線は教室に続いている。僕はその線をたどりながら歩いていく。誰も出会わない通路を5分歩いていくと、ふいに通路の天井が開けて青い空が見えた。

ぽっかりと広い空に白い雲がひとつ浮かんでいる。

通路は陸橋になっており、他の通路が立体的に交差している。

遠い陸橋には、まばらに人影が見える。通路ごとに一人程の人影がぽつり、ぽつりと歩いている。

もっと、子供の頃はあの人影に手を振ってみたり、声を掛けてみたこともあったが、

声が届かないほど遠いのか、なんの反応もない。ただ人影立ちはそれぞれの行先に、僕と同じ様に黄色いラインをたどっているだけだ。

更に、5分歩くと、白い大きな円筒形のビルについた。陸橋はそのビルに真っすぐ入っている。他の陸橋も円筒形のビルに糸の様に繋がっていた。


ビルに入ると、自室の部屋の前と同じような通路に入る。さらに5分歩くと黄色い線が不意に折れ曲がり、一つの扉に続いていた。

扉は自分の部屋の扉と変わらない。手をかざすと扉が開く。

僕はいつもの”教室”に入った。


”教室”は10人分の机と椅子が並んでいた。”教室”にはすでに9人の”クラスメイト”がいた。

4人は机に向かって椅子に座っており。他の3人は部屋の傍ら集まって話をしている様だ。

僕は黄色いライトが光っている自分の席に座った。この黄色いライトは他の生徒には見えず、他の生徒も同じように黄色いライトが自分の席に光るが、そのライトは僕には見えない。

 集まって話をしている3人が、部屋に入ってきた僕に気が付いて近づいてきた。

教室上隅に浮かんでいるデジタル時計は淵が黄色く光っている。あと3分弱で授業が始まる。

いつも、僕に話しかけてくる。会話の内容はいつもよく覚えていないような事ばかりだ。

 僕の興味のない話ばかり。本当は話は聞きたく無いが、なぜか彼らは僕の席の前で話を始める。

お互いの家族の話とか、どう考えたらいいのか分からない話ばかりだけど、今日はちょっと違っていた。

 本当は僕たちは動物の一種で大昔は森の中で生活していたという話だ。

聞いていた他の友達二人も信じられないと言っていた。

森の中に住み、家という巣を作り、動物の様な狩りをしていたという。

僕も信じられないが、何か心にひやりとした何かが過ぎるのを感じた。

 …何だろう、信じられない話だ。自分の中に生まれた不安がなにか不快にさせる。

なんの感じなんだろう。三人の友達が話している内容を聞きながら不安感が生まれてくるのを感じた。

教室のスクリーンが薄い赤で点滅を始めた。そろそろ授業の時間だ。

スクリーンのすぐ脇のからT-Cが現れた。立体映像のそれは自宅にいる僕のコンシェルと同じデザインだけど、顔に眼鏡を掛けている。いつの間にかいつもの三人は自分の椅子に座っていた。

 「皆さん、お早うございます。」T-Cは口を開いた。「皆さんの健康チェックを致します」T-Cは一度手を下して前に組みその姿勢のまま、「いまここの4人が授業を受けにくい心持ですね」と歩き出し、T-Cは僕の前で止まった。

彼女は僕の目を真っすぐ見ると、「特に貴方」T-Cは僕の目を覗き込む。

僕は思わず目を逸らした。

「あなたは医務室に行くほど。何があったのかしら?」

T-Cは姿勢を正すと僕に「医務室に行きましょう」とぼくを促した。

立ち上がり、僕は重い足取りで歩き出す。教室のみんなは僕のことを振り返りもせず、スクリーン脇にいつの間にか現れたもう一人のT-Cのに向いていた。僕は入ってきた入口にT-Cと一緒に歩いて行った。


教室の外には同じ通路だが、来た時に付いていたガイドの線が来た道と反対方向に続いていた。ライトの色は黄色ではなく、赤色に変わっていた。

T-Cは僕の横に立ち、ガイドの線に行くよう、目線で促した。

ふと、その瞳が怖くなり、目を伏せてガイドの線をたどる。

半歩遅れて僕の横についてT-Cは歩き出した。

T-Cは僕の横を歩きながら「お友達と喧嘩でもしたのかしら?」と聞いた。

その、少し一本調子な、どことなく見下した言い回しに少し体がざわざわした。

「…本当にどうしたのかしら?あなたの様ないい子がこんな心持になるなんて?

嫌な事でも言われた?私が相談に乗りますよ?」

赤い線のライトを辿りながら、T-Cに話しかける。

「…どうして調子が悪いのが分かったの?」

T-Cは半歩、斜め後ろから歩きながら、「お顔を見れば分かりますよ」

やんわりとした声が掛かってくる。その声に、僕は何故かゾクッとして

振り向きT-Cに聞いた。

「どうして、そんなこと分かるの!出来るはずないじゃない?」

T-Cは立ち止まって姿勢を正し、「そうですね。人間の皆さんは出来ません。

でも、私たちコンシェルシリーズは出来ますよ」

微笑を浮かべるT-Cが、何か奇妙に薄気味悪いものに見え、その場に立ち尽くした。

「…興奮されていますか?かなり精神的に不安定でいらっしゃいますね、早く医務室に行きましょう」

僕はT-Cに促されるまま、通路の赤いライトを辿り、一つの扉に行きついた。

黄色の光に縁取りされ青いと赤い縞模様の扉の前に立つとまるで待っていた

かのように扉が開いた。

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