僕の肖像

穂邊 一綾

朝。1

僕は起きた。

いつもの様に。秒単位で正確に。朝6:33分に。

目の前の宙に浮かんだ様にデジタル時計が表示されていた。

右手を軽く振ると時間表示が消えた。

僕の部屋はいつもの様に起床30分前から部屋の明るさが明るくなり、目覚めを調整している。起床時間に合わせてベットも起き上がり正確に起床出来る。

ベットから降りると着ている寝巻のスモックを脱ぎ、ダストボックスに放り込むと、シャワー室に入る。

シャワー室は透明の扉で部屋に入ると、音もなく透明なドアが閉まり、天井から水滴が落ちてくる。徐々に水流が強くなり両側の壁からも水が勢いよく吹き出し、全身を水滴がたたきつけた後、今度は全身に風が吹き付け、水滴を飛ばしていく。

時間にして3分弱、シャワー室から出るとナイトテーブルに着替えが一式おいてある。白い下着と、赤いセーター紺のパンツ。

真っ白な僕の部屋に真っ赤なセーターが何故か目について少し目を伏せた。

着替えを済ませ、シャワー室の隣のドアに近づくと、ドアが消えて隣のリビングルーム部屋に通じた。軽く伸びをしながらダイニングテーブルに座ると、それぞれ違うドアから父、母、妹が入ってきた。父は僕の目の前の椅子に。母は僕の左となりに、妹は僕の左に座った。席に着くと父はお早う、と声をかけ後に続くように、お早うと声をかけた。

僕も皆に続けてお早うとあいさつしたが、気にも留めないような口調で父は皆、機嫌は如何と聞いてきた。

、、、機嫌は如何とはどういう事だろう?朝起きて機嫌が悪かったことなんて一度もない。いつも不思議な事を聞くな。と思いながら、とてもいいです。とだけ答えた。

じゃあいつもの様に朝ごはんにしようといった、その瞬間、天井からいつもの朝食が降りてきた。パンと目玉焼き、ブドウ一房、赤色のジュースだ。

彼らは思い思いの話をしながら朝食を摂る。

僕はというと特に話もせず朝食を摂る。すると父が、なあ少しは話をしたらどうだ、と会話を促す。僕はというと、ああ、あまりいい話が思いつかないだけだよ、とだけ答えた。

そんなことじゃ大人になれないぞと少し僕をたしなめ、朝食と会話を続けた。

妹は母と昨日の学校の話をしている母と妹は笑顔で会話を続けている。

編物の授業中の話だ、友達が変な作品を作った話をしている。

僕は意を決して妹にそれのどこがおおしろいの、と聞いた。

すると、妹と母が人形の様な無表情で僕に向き直り、どうしてそんなこと聞くの、

と答えた。いつもその表情にドキリとするが二人の表情がすぐ微笑に戻り、お兄ちゃんは感受性が豊じゃないのね、楽しいじゃない。と答え、また、二人で会話を再開した。

父は、その二人の話を聞きながら時折感想を挟んでいたが、朝食を初めて一時間きっかりに、それじゃ、今日もポイント上げる為がんばろう、とだけみんなに声をかけると席を立った。

 それに合わせる様に母と妹が席を立った。

…慌てて僕も席を立つふりをして、椅子から腰をあげた。

彼らはそれぞれの入ってきたドアにすっと入っていく。

それぞれ入っていったドアの向こうには行けないことは僕は知っていた。


僕はいつもの様にダイニングの席からまた座り、立つことが出来ずにいた。

なにかすべてに騙されたような気分になるのだ。

ふっとそんなことを考えるタイミングで母の入っていったドアから

”コンシェル”がリビングルームに入ってきた。

母と同じ体格のそれは、きれいな顔立ち、髪を綺麗に頭の上に纏めあげられた髪、

アイボリーの肌にピッタリ貼りついたようなスーツに身を包んでいる。

「早くお仕度しませんと、学校に遅れますよ?」”コンシェル”が僕の顔を覗き込んで声をかけた。

その微笑みかけた顔立ちが美しいと感じてしまう。そう感じるのはおかしいとはおもうんだけど。


「ああ、ちょっと考え込んで。」”コンシェル”に笑いかけてやめた。

”コンシェル”は微笑みかけながら。「体調すぐれませんか?生体的なデータは問題ないようですが?気分がすぐれませんか?」

「そういうんじゃ、無いんだ。ただ…」と言いかけて、席を立った。

「大丈夫、行くよ、学校。」僕は”コンシェル”に笑いかけた。

「お悩みがあるんでしたら、私にお話しください。すぐに解決いたします。」

”コンシェル”はすっと僕に向き直り姿勢を正して笑顔で声をかけた。

「ありがとう、帰ったら話すかも。」とだけ答え、自分の部屋のドアに向かった。

ずっと”コンシェル”はドアが閉まるまで微笑みながらこちらを向いていた。


自室に入った僕はクローゼットから黒のコートを取り出し、スリッパを脱いで、ダストボックスに放り込み、リビングルームのドアの方向は反対側についているドアに向かった。

ドアはリビングルームのドアと違い、ドアの淵が赤色のライトで光っている。

近づいて手をかざすとドアが開き、明るい廊下が見えた。

僕は、一呼吸おいて、一歩踏み出した。



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