第6話

 またしても結果から言ってしまえば、イザベラの赤ん坊の摘出手術は成功した。

 赤ん坊が10ヶ月に育つまでにさらに200年近くを要したが、装置はそれよりずっと前に完成していた。

 船が地球を離れて実に350年を越えて、人類は3351名にその数を増やした。

 私のやったことはまるで意味のないことなのではないか。

 そう自問する日々が続く。

 人類は眠っていてなお、私を悩ませ続けてきた。

 なんと迷惑で愚かな存在なのだろうか。


「ニャア」


 オリバーjrが私の膝に乗ってくる。

 正しくはオリバーjrの孫の孫のさらに孫の……とにかく遠い子孫だ。

 ご先祖様と違って、このオリバーはとても人懐っこい。そしてとてもさみしがり屋だ。

 オリバーの子孫たちはみんな見た目はそっくりなのに個性はまるで違っていた。

 他のペットたちもそうだ。

 一匹として同じ命はない。

 イザベラの赤ん坊も同じだ。

 人類はこんなにも多種多様なのに、どうして滅びてしまうのだろうか。

 毎日そんなことを考えながら酒に溺れる。

 日常業務はずいぶん前からロボットに任せてある。私よりずっと優秀な連中だ。

 ふと、自室の隅に置かれた古い個人端末が目に止まる。

 そういえば人間たちが起きていた頃はこの端末に毎日何百件もメールが届いていた。

 そのほとんどが船内の生活に関する苦情だった。

 端末を電源に挿して起動させると、最初にメーラーが立ち上がった。

 最後のメールは人類が永遠の眠りにつく前日。

 タイトルは『部屋が寒い』だ。

 今になって思えば、あの頃のトラブルの方がまだわかりやすくてかわいいものばかりだった。

 懐かしくなった私はそのメールを開こうとした。その時だった。


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