第4話

 船の自動航行システムの保守点検、コールドスリープ装置の確認、中の人間たちのバイタルチェックと記録、船内清掃、循環農園の手入れ、ペットの世話、宗教儀式……。

 いつの間にか私の日常業務は増えに増えていた。

 それに加え、人間たちが船内に残したものが起こす不測のトラブル。

 誰かが持ち込んだミントが農園を浸食し、危うく他の植物が死滅しかけたこともあった。

 麦やホップ、リュウゼツランなど酒の原材料になる植物を枯らすわけにはいかなかったので薬品は使わず手作業で地道にミントを処理した。

 しばらくはモヒートが業務後の楽しみになった。あれも旨い。


 名前も言いたくないあの頭文字Gの虫が船内で大発生したこともあった。

 おそらく人間たちの持ち込んだ物にヤツら卵が付着していたのだと思われる。

 初めてヤツらの姿を目の当たりにした時、私は恐怖に凍りつき生まれて初めて神に祈った。

 例のスパゲッティとミートボールの神だ。

 しかし大概において神は何もしてくれないということもわかっていた。

 とにかく、私の精神衛生のためにヤツらを根絶する必要があった。

 いっそのこと居住区画の空気を抜いて一網打尽にしてやろうかとも思ったが、それはそれで別な問題がおきそうなので諦めた。

 何かに駆り立てられるように私は駆除薬の開発に没頭した。

 しかしいかに強力な駆除薬を用いても、何世代かするとヤツらは耐性を獲得してしまう。

 私とヤツらの一進一退の攻防はそれから何十年にもわたって続くことになる。

 

 近頃、酒量が増えた。

 料理の腕があがったことでつまみのバリエーションが増え必然的に酒がすすむようになったのだろう。

 決してストレスで暴飲暴食しているわけではないはずだ。

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