第30話 実行犯は、喜びながら死を望む。

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 サイド:実行犯・ステラ




 意識が戻ると、椅子に座っていた…。



 …状況が飲み込めない。



 アカデミーで、捕らえられて…それで…



 うっすらと目を開ける…ここは…何処かの食卓だろうか?



 痛い…。



 痛みを感じて確認すると、手と足が縄で、しっかりと括られていた。



「あら?目が醒めたみたい!」

 あの時の少女が、無邪気な声をかけてくる。



「本当ね?大丈夫?質問には答えられる?」

 夫人に優しく問いかけられる




「…」


 …きっと答えても、答えなくても、これから殺される。


 そう考えると、涙が一筋零れ落ちた。


 涙の理由は……私にはわからない。





「あらあら、泣かせてしまったわ。


 お嬢さん、泣かないで頂戴?


 泣く必要は無いのよ?


 だって貴女は、加害者でしょ?」




 あぁ…やはり…全てバレている。



 そして美しい夫人は、楽しそうに続けた。



「貴女には特別に、選択肢を用意したの。

 だから心して聞いて頂戴?


 貴女がとれる選択肢は3つ。


 洗いざらい吐いて、苦しまずに死ぬか。


 それとも、洗いざらい吐いて、無様に生き延びるか。


 はたまた、何も吐かずに、1番の被害者の元に引き渡されて、激しい拷問の末に殺されるのか。


 私はどれでも構わないのだけれど…貴女はどれがお好みかしら?


 …それとも…もっと手荒に聞きましょうか?」




「っ!!!??」

   



「……しゃ、喋りますっ!!喋りますからっ!!く、苦しまない方で…どうか!どうかお願い致します…」



 …ああ。…ようやく終われる。



 この碌でもない人生を、終わらせる事が出来る。



 それに、苦しまずに終わらせて貰えるなんて、…最高のご褒美だ。




「…そう。わかったわ」



そう言って夫人が、手をパンパンと叩くと、書類を持った人が2名入ってきた。



 それから私は、洗いざらい吐いた。


 自分がしてきた、許されない行為の数々を。




 ミーナの菓子に毒を盛ったのは、自分だという事


 毒見役を変えさせた事


 毒は、マーテル男爵家から仕入れた事


 毒の効果は知らないが、毒だという事は知っていた事


 ミーナの行動制御を行なっていた事


 第一王子を保護するように動いていた事




 そして、脅されて、指示に従っていた事




 私は、私が関与した全てを、吐き出した。



 吐き出しながら、自分の犯した罪を自覚して、苦しくて涙が止まらなかった。



 そして全てを吐き終えると、美しい夫人が口を開いた。




「…ご協力ありがとう。


 では、用事も済んだから、貴女には死んでもらうわ。


 最後になにか言いたい事はあるかしら?」




 と、綺麗な顔で、優しく問われる。



 その言葉を聞いて、なぜか自然と笑みが溢れてしまった。



 そんな私の顔を、夫人と少女は天使のように微笑んで、楽しそうに覗き込んでいた。



 碌でもない私が人生の最後に見たのは、恐ろしく美しい天使達だった。



 どうやら、碌でもない私の最後は、他の人よりも恵まれていたらしい。




 実行犯 ステラ 編 fin

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